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みがく。To Polish

Jan Stigter
  • 下北沢「lown」にてライブ終了
  • 渋谷駅出発
  • 滋賀県長浜市木之本町到着
  • ペンキ塗り開始
  • 昼寝
  • ペンキ塗り再開
  • 川遊び
  • JR 長浜駅近くで昼食
  • 琵琶湖に到着
  • 夕食
  • 東京に向けて出発 ↓
  • 帰宅

Place

@滋賀県長浜市
木之本町金居原
N 35°38 E136°28'

Profile

ヤン・スティグター
ミュージシャン
1990年東京都出身。
GREAT3、jan and naomi、The Silence、Roseとして活動中。
ベース、ギターやキーボードを演奏するほか、
歌唱、作詞、作曲そして映像制作やアートワークも手がけている。

リラックスしに来ているわけではなく、むしろその逆で、自分を磨きに来ている感覚があるんです

下北沢でライブを終えた午前1時過ぎ。フォークデュオ、jan and naomi のヤン・スティグターは東京から約450km離れた滋賀県と岐阜県の県境にある金居原という村へ車を走らせていた。“36時間”という時間のなか、感性を「みがく」ために。

「この車、先輩に譲ってもらったんです。それからは、水を得た魚のように、時間があればいろいろな場所に行くようになりました。運転は音楽と同じぐらい好き、とくにこの時間のドライブは特別。東京がだんだんとぼやけて闇に溶けて行くなか、大自然に向かうのが気持ちいいんです」

首都高から新東名、西へ西へと向かう車内では、Deerhunterの『Don’t Cry』、Dot Allsionの『Paved with A Little Pain』、Eminemの『Role Model』やPrimal Screamの『Get Duffy』、William Onyeaborの『Better Change Your Mind』など、ジャンルレスな音楽がランダムに響いている。眠気を覚ますためか、窓を全開にし、チャーミングな天然パーマのロン毛をなびかせながらのドライブ。

ヤンが向かう滋賀県木之本町にある金居原という村には、2、3ヶ月前に滋賀県出身の友人のお父さんから受け継いだ、築40年近い一軒家がある。それは“お父さん”が結婚した際に作ったもので、ご厚意で使わせていただくことに。そして、自身のアトリエにすべく、東京での仕事の合間を縫っては改築を施している。

「今年の3月にここを使っていいと言われて、今壁にペンキを塗ったりして作っているんです。最近は大阪・京都など、関西でのライブも多くなったし、そこをどんどん自分の場所になるようにいろいろと手をつけていきたいなって思っているんです」

水や木々と触れ合うことが、
知らない間に自分の悩みとかを排除してくれる

金居原に到着したのは、渋谷を出発して約6時間後、夜が明けた午前7時ごろだった。もともと土倉銅山で働く鉱夫たちが生活していたこの集落では、現在、若者のほとんどが村を離れ都会へ行き、70〜80歳のおじいちゃん、おばあちゃんたちが静かに生活を営んでいる。

「曲を作ったり、絵を描いたり、デザインしたりするのはもちろんですけど、東京では感じられない地球のエネルギーだったり、バイブレーションを感じて生活したいなって思っています。だから僕にとってこの場所は別荘でもセカンドハウスでもないんです。東京の喧騒から逃れてリラックスしに来ているわけではなく、むしろその逆で、自分を磨きにきている感覚があるんです。ライブやレコーディングに向けて、自分のなかに火薬をつめて、大砲を撃つ準備をしている状態に近いと思います」

アトリエにギターなどの荷物をおろし、ヤンが向かったのは、歩いてすぐのところにある杉野川の上流。そこで顔を洗うと、庭の草むしり、壁のペンキ塗りを始める。1時間の昼寝を挟み、ペンキ塗りを再開。一階とトイレや洗面台をすべて真っ白にペイントしていく。ひと段落したところで、ヤンはギターケースを持ち、琵琶湖へ向かった。車で30分ほど湖沿いをドライブし到着したのは、トンネルとトンネルの間にある、小さなビーチだった。ヤンはふらっと湖の方へ向かい、少しギターを弾くと、まったく躊躇することなく洋服のまま水と戯れる。ヤンの行動はどれも自然、かつピュアである。ひとりの表現者として、固定観念や偏見といった色眼鏡を外すことの大切さを体現しているような気がした。

約16時間の滞在を終え、東京への帰路を前に“お父さん”の家で、鯖寿司などをごちそうになった。そして、22時に金居原を出発。ヤンは、高速道路を照らす街路灯を浴びながら振り返った。

「金居原へ向かうドライブの時間は、東京に帰ってきたらあれやろう、これをしようとか、いろいろ考えていることが多いんです。でも、帰りのドライブでは、東京で何をすべきかが明確に決まっている。自然と取捨選択できているというか、自分が何をするべきなのかが分かっている状態になっているんです。水や木々と触れ合うことが、知らない間に自分の悩みとかを排除してくれていたり、無駄な選択肢を削ってくれているんだなって思うんです」