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食を変革する“奇跡”のワイン
BEAU PAYSAGE

写真:小林直人 コーディネイト:鈴木純子 編集:kontakt
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食を変革する“奇跡”のワイン<br />BEAU PAYSAGE

“いいワインと聞くと、多くの人はフランスやイタリアに想いを馳せるだろう。ボルドーかブルゴーニュか、あるいはバローロかもしれない。次いで、ドイツ、オーストリア、スペイン、チリにアメリカといったところだろうか。確かにフランスやイタリアなどの古くからの銘醸地の風土はワイン造りに適しているし、これら欧米を連想するのは知名度からいっても流通量から見ても当然のことであり、文化としても成熟している。だが、ご存知の通り日本にもワイナリーは存在する。多くの場合、海外から輸入した濃縮ぶどう果汁を加工したものという事実も一方にはあるから、それを鑑みると“いいワイン”とは言い難いだろう。しかし、そのなかでも、日本の風土に合わせて丹精込めて造られたワインは確実に存在する。欧米からは遅れをとりながらも、文明開化を皮切りに日本でも固有種を使ったワイン造りをはじめ独自のワイン文化は育まれつつあり、現在その生産地は日本全土に及ぶ。

その先陣を切ったのは、日本における近代ワイン醸造の元祖とされる山梨県だった。

BUTTERFLY PROJECT

「BEAU PAYSAGE」=「美しい景色」

日本百名山に数えられるシンボリックな八ヶ岳や甲斐駒ケ岳を有する南アルプスに囲まれた山梨県北杜市は、季節ごとに豊かな表情を見せる大らかな自然の恩恵を実感できる土地だ。ワイナリー「BEAU PAYSAGE(ボー・ペイサージュ)」は、そんな雄大な自然に抱かれた場所にある。林檎の産地としても知られる北杜市の津金。標高800mほどの高地に、ボー・ペイサージュのぶどう畑と通称「山の家」と呼ばれるアトリエはある。生産者である岡本英史氏によって作られるワインを、ある人は「いままでにないほどに心が動かされた」と賛美し、またある人は「自然が醸し出すさまざまな味と香りが優しく滋味深く凝縮されている」と語る。そして岡本氏自身が目指すのは「口に含むと情景が浮かぶようなワイン」。

BUTTERFLY PROJECT

自然のままを味わう喜び

「ワインは人がつくるものではなく、土地そのものを映し出すもの」。これが、岡本氏にとってのワイン造りのすべてだ。そして、その年のその土地の味わいをそのまま飲み手に伝えるべく、自然なワイン造りにこだわっている。

自然な発酵を大切にし、ぶどうは収穫後、醸造場へ運びすべて手で除梗してそのままタンクへ。ぶどう自身の重みで自然と果実が潰れ果汁が滲み、すぐに発酵が始まる。現代のワイン造りの多くは発酵を促すために、様々な添加物が使われ人為的な操作がされているが、ボー・ペイサージュの「自然発酵」とは、何も加えず、何もしない“あるがまま”を引き出す発酵だ。ここで目指すワインの表現が「多様性と相関性」だと話す。それは、自然発酵を徹底することで克明にその土地のそこにある自然そのものを表せるワインになるからだろう。

ここで、岡本氏の文章を一部抜粋させていただく。

「(前略)ワインを飲むということは自然と触れ合うことであり、意識の上でも無意識下においても人は自然の一部であることを確認する行為なのだと考えています。自分も自然の一部であることを忘れてしまいがちな日々の暮らしの中で自然をそのまま写したワインを飲むことで心も身体も自然の一部である感覚を取り戻すことができるのだと思います。(中略)そしてぼくにとって自然のルールに従って生きることは幸せを感じて生きるためにとても大切なことだと考えています。」(BEAU PAYSAGE / Pinot Noir 2015より)

BUTTERFLY PROJECT

未来の食のあり方「バタフライ・プロジェクト」

ボー・ペイサージュの哲学となる思想を背景に、自然そのままの姿を表すワイン造りを徹底するなかで、岡本氏はワインを発酵させる前の果汁に糖を加える「補糖」に疑問を感じるようになった。それは補糖に使われる砂糖が、生産国の自然環境や生産・加工に関わる人々に与える影響だ。日本の裏側で熱帯雨林は破壊され貧困は助長されている。この事実を知った時、岡本氏は愕然とし、食に携わる人間として行動を起こさなければならないと感じたのだ。「バタフライ・プロジェクト」は、そうした食べ物が「誰が、どういう考えで、どのようにつくられたのか」を、誰でも簡単に分かるようにしようとする活動だ。

インフラは整い、技術が発展し、流通経路はより多様化し複雑化している。TPPにより自由貿易が活性化すれば、食の実態は益々見えづらくなるだろう。生産者である岡本氏は、そうした現代だからこそ情報を確実に持っている生産者が情報を開示する立場になるべきだとし、各生産者の価値観を共有したうえで消費者に購買の選択権を委ねることが必要だと考えている。そこに善悪はなく、各々の価値観で選べることが重要なのだ。

自然のままであることを突き詰めれば、いくつかの矛盾に気づき、我々人間が自然に対してするべきことは自ずと見えてくる。このプロジェクトも、岡本氏が自然なワイン造りを通して自然と人間の相関性を肌身で感じるなかで、生まれるべくして生まれた活動だろう。それを証明するかのように、既にこのプロジェクトには多くの賛同者がいる。食のプロフェッショナルだけでなく、音楽やデザインに携わる人間もいる。旨いワインを大前提として、職を異にしても「表現」という共通言語のもと、岡本氏の実直で誠実な想いに心を動かされ集ったのだ。

国と国を、人と人を、人と自然を結び合わせる媒介としての食。本当の意味で“いいワイン”と呼ぶのは、そういう存在なのかもしれない。

BUTTERFLY PROJECT

BUTTERFLY PROJECTBEAU PAYSAGE / Pinot Noir 2015
バタフライ・プロジェクトのために生まれたコンピレーションCDブック。自然なワインと同じ価値観を持つ繊細な音楽を、bar buenos airesの吉本宏氏が選曲。この特別なブックレットには、岡本氏の想いに共感した様々な分野で活躍する人たちのコラムを読むことができます。題名に「ピノ・ノワール」を選んだ岡本氏のワイン造りへの想い、試行錯誤を繰り返して造り続けた経験談など、今日のボー・ペイサージュを語るには欠かせない物語も綴られています。

※このCDの販売によるボー・ペイサージュの利益の全額はバタフライ・プロジェクトの活動資金として使われます。

about him

Winemaker
岡本英史

BEAU PAYSAGE代表、栽培醸造家。
1970年愛知県生まれ。明治大学農学部農芸科学科を卒業後、山梨大学付属酵素化学研究施設(現ワイン科学研究センター)博士前期課程修了。勝沼のワイナリーに勤務する傍ら、黎明期の日本ワイン界に於いて多大なる尽力をおこなった今は亡きメルシャンの故・浅井昭吾(麻井宇介)から薫陶を受けながら、ブドウ栽培に適した土地探しを開始。1999年に八ヶ岳の南斜面、標高800mの高地である津金の畑でメルローの苗木を植え、同年初ヴィンテージをリリースする。


「ワインは人が造るものではなく、土地が造るもの」 という思想のもと、土地の個性を"あるがまま"に反映させたワイン造りを行う彼のワインに魅せられる人は多く、国を超えて彼のワインに注目が集まっている。


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