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停滞か、革新か?
UKカルチャーの現在。

写真:松原裕之 文:黒澤卓也 編集:kontakt
カバーデザイン:菅谷幸生
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停滞か、革新か?<br />UKカルチャーの現在。

馬場圭介 (スタイリスト) × 鳥羽伸博 (コーヒープロデューサー)

ファッションや音楽をはじめとする多様なカルチャーが色濃く街に溶け込むイギリス。これまで、この地から発信されるあらゆるものに世界は魅了され、時代を彩る多くのムーブメントが生まれてきた。そんなイギリスは現在、伝統と革新の狭間で揺れる「カルチャーの転換期にある」という。そう語るのはUKカルチャーに魅せられた二人の男、スタイリストの馬場圭介さんと、コーヒープロデューサーの鳥羽伸博さんだ。旧友でもある彼らの昔話を交えながら、イギリスの今を考察する。停滞か、革新か。英国カルチャーの向かう先。

アイデンティティを持った国

編集部:お二人がイギリスに魅せられたキッカケとは?

馬場圭介:イギリスに興味を持ったのはビートルズがきっかけだね。それとジョージ・ベストかな。 音楽とフットボールがとにかく好きだったからさ。1987年に初めてイギリスに行って、そこにはいたるところにカッコイイやつらがいたんだ。日本みたいに、周囲と同じものをよしとせず、一人ひとりが個性を貫いていて、そのスタイルは各々のルーツやアイデンティティを表現するものでもあったと思う。パンクやモッズ、スーツってスタイルは色々あったけど、単純な外見のよさだけでなく、ファッションに対して彼らならではのルールが存在していたんだよね。あと、イギリスって 空が広くて、ちょっとグレーっぽい色が寂しさを感じさせるんだけど、そのシチュエーションと洋服がまた合うんだよな。そんなイギリス特有の空気感と個性的な人々に惹かれたんだよね。

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英国に精通したスタイリスト・馬場圭介さん

鳥羽伸博:僕がロンドンに住み始めたのは、1996年ですね。馬場さん同様に音楽がきっかけでイギリスのカルチャーに興味を持ち始めました。ビートルズもそうですが、僕はザ・フーですね。向こうに行ったときはオアシスが全盛期。洋服ではストリートが流行していて、アノラックやパーカを着ている人が多かったのを覚えています。あとは食の最盛期だったので様々な国の食事が入ってきてました。ケバブやインド料理、中華はスタンダード。これらとイギリスの代表食でもあるフィッシュアンドチップスをよく食べていましたね。イギリス料理ってよく不味いと言われているけれど、美味しいものもありましたよ。でも驚きを受けた料理も多かったです。ポテトチップスを砕いたものを挟んだサンドイッチを初めて見たときは衝撃でしたね。イギリス人はこんなものを食べているのかと。

馬場:それは俺も驚いた記憶があるな(笑)。俺が好きなイギリス料理はやっぱりイングリッシュ・ブレックファストかな。パリッとしていない、ぬちゃっとした食感がするソーセージが付いていて、それが美味しいんだよ。もちろんフィッシュアンドチップスも食べてたね。ビネガーがたっぷり掛けられていてそれもまた美味いんだよね。

鳥羽:フライドブレッドがついてきますね。ベーコンを焼いた後の油でパンを揚げた料理なんですど、添えられたベーコンが分厚くてステーキみたいなんです。あとは食にもイギリス人特有の厳格なルールみたいなものがありましたね。こうと決めた食事を飽きもなく毎日ひたすら食べ続けていたりとか。

馬場:それはイギリスの階級社会も影響してるんだろうね。位が高い人ほど同じもの食べている印象があったし、洋服もそれぞれの個性はあるけれど、自分に見合ったものを着ていたと思うよ。住む場所、行く場所も位で分けられていて、場所によっては芸能人とかも普通にいる。

鳥羽:アイビーというお店ではジョージ・マイケルが隣にいたこともあったしね。

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イギリスを支える変わらないもの

編集部:お二人が見た初めてのイギリスから、今日まで2~30年の月日が経ちましたが、現在のイギリスはどういう情勢なんでしょうか?

馬場:最近では半年ぐらい前に行ったけど、さっき話したような感じは少し薄れてしまっていたね。洋服にしろ、音楽にしろ、いまいち。昔に比べると悪い意味でイギリスは景気がいいんだよね。生活は安定しているけれど、貧困の差がなくなって、皆が均一になりがち。そういう環境からは新しい何かは生まれにくいよね。

鳥羽:僕は2、3ヶ月前に行きましたけど同様の感じを受けましたね。その原因はインターネットの普及も大きいと思いますね。これはイギリスに限りませんが、情報社会になった分、クリエイティビティが生まれにくいんですよ。情報社会の今、イギリスは少しアメリカナイズドされてきていますよね。

馬場:そうだね。街でも随分アメリカのものを見かけるようになったしね。夜とかに遊び行ってもなんとなく、アメリカの匂いがする場所が多い。

鳥羽:コーヒー屋も今流行りのブルックリンっぽいのが多くなっていますよ。昔はアメリカものは避けるみたいなところがあったんですけどね。

馬場:でも変わらずに残っているものもあるよな。カフェだったらSOHOにある「Bar Italia」とかさ。あそこのカプチーノは最高だね。イギリスに行ったときには必ず寄るんだけど、昔から味も雰囲気も何ひとつ変わっていないんだよね。

鳥羽:いいお店ですよね、僕も好きです。コーヒーの仕事をしているので、自分なりの味を常に模索しているんですけど、「Bar Italia」はその極みですね。美味しい、不味いというよりは、そこにしかない味なんですよね。作り方とかは割と雑なのに不思議と魅了されてしまいます。そういったものが、今も本当のイギリスを支えていると思います。

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フロスストリートにある「Bar Italia」の外観。60年以上の歴史を持ち、今も変わらない本物の味を提供している。

馬場:イギリスの作り手は基本的に頑固だからね。例えるなら日本の職人みたいな感じなんだよね。そういった人たちが少なからず歴史を大切に紡いでいるよな。

鳥羽:でもトラディションが厳しい時代になっているのは間違いないですからね。それらも上手く時代に合わせないといけない部分はありますよね。

馬場:過去を振り返るとイギリスのトラディショナルなものづくりに、他国のマーケティング頭脳が入ったときは意外と上手くいくことが多かったと思うね。イギリス靴の《Church’s》は、《PRADA》に買収されてから世界的に売れたしね。《Belstaff》も今の本拠地はイタリアだからね。

鳥羽:イギリスは伝統も土地に根付いたカルチャーもあるけれど、それらを上手く活かそうとかっていう商売っ気がないんですよね。昔はそんなこと必要なかったけれど、今は時代が違う。老舗ブランドも変わらなければならない時がきたということだと思いますね。

伝統を革新する

馬場:変わるといってもあくまでもトラディションを踏襲したものでないと良いものにはならないよね。

鳥羽:そうですね。いかに伝統を活かして、現代的にアップデートするかがとても大切だと思います。最近だと《東インド会社》という紅茶ブランドがそれに当たりますね。元々は社会の歴史にも登場する大きな貿易会社で、とうの昔に解散したのですが、2010年にインド人経営者によって135年ぶりにロンドンで復活したんです。商売道具の一つであった最高品質の茶葉と、創業から受け継がれてきた味を現代に伝えることで、イギリスをはじめ世界で成功していますね。

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《東インド会社》のロンドン店。厳選された高品質の茶葉やコーヒーをはじめとする自社ブランドの高級食料品が揃う。

馬場:ファッションだと《PRIVATE WHITE V.C.》が老舗の新しい形を担ってくれそうかな。元々はイギリスの老舗ブランドの服を作る工場だったけど、2010年に自社ブランドを立ち上げたんだよね。ブランドの歴史こそまだ浅いけれど、生産自体はOEM時代に培われてきた伝統的な技術を 活かしているから、作るものは当然だけどクオリティが高い。老舗のような高貴な佇まいに仕上がっているし、現代的なフィルターもかかっていて、いいバランスだと思う。

鳥羽:デザイナーもニック・アシュレイを起用していますしね。《KENZO》や《TOD’S》など数々の有名ブランドを手掛けてきたキャリアもあるし、カジュアルだけでなく、テーラーリングも得意な彼のスタイルは《PRIVATE WHITE V.C.》と相性がいいでしょうね。クラシックを大事にしながらも、モダンなエッセンスを取り入れられる人物だと思います。

馬場:確かニック・アシュレイって俺と年齢が一つしか違わないんだよね。全く同じ感覚だとは言えないけれど、良いとされていた昔のイギリス文化や街を彼も見ていたはずだから、ちゃんとそういう伝統も理解した上で、今のものを作ってくれると思うな。

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左:今季はシャワープルーフ仕上げのコットンキャンバスを採用したブランドのアイコン的ジャケットの“TWIN TRACK”。¥89,640 右:ブリティッシュミラレーン社のワックスコットンを使用したオイルドジャケットの “SHOOTING JACKET”。¥66,960/BRITISH MADE 青山本店 TEL 03-5466-3445


デザイナーを務めるニック・アシュレイのインタビューを含むブランドのものづくりに対するコンセプトをまとめたムービー

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鳥羽:あとは「St. John」というレストランもイギリスの顔になっていると思いますね。外観は今っぽくてカッコイイですけど、料理は昔から続いている自国らしいものを美味しく調理して提供しています。スモークしたサバとか。伝統をちゃんとリスペクトしているからこそ、年齢問わずにこのお店を好きな人が多いですね。

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1994年のオープン以来、ビジネスマンやクリエイターたちが通いつめる人気レストラン。2009年にはミシュラン・ガイドでは、一つ星を獲得。お店の名物である骨髄サラダは、骨の中の骨髄を掻き出して、パセリとケイパー、岩塩を混ぜ合わせて、トーストに乗せて食べる。

馬場:イギリスのこれからを担うのはそういったところだよね。昔から持ち続けてきた厳格なマインドを今の人に伝わる形で表現していけば、昔のようなアイデンティティを感じる国としての魅力が戻ってくると思う。そのときにはきっと、今のアメリカナイズドなお店や洋服も排除されていると思うな。他国の文化を取り入れることが悪いとは言わないけれど、そのものづくりや発信することに、揺るがないコンセプトがないと長続きはしないものだからね。

鳥羽:そうですね。アイデンティティのないものは、洋服や食に限らずいつかは失われていくものだとは思います。外面だけでなく、歴史と向き合って何をやるべきかですよね。

馬場:イギリス人は本来、自分の価値や歴史を重んじている人たちだから、きっとそういった流れは近い将来あるだろうね。イギリスに初めていったときの独自の空気感とアイデンティティのある人たちにまた出会えるのを楽しみにしながら、俺はこれからもイギリスを見続けていくだろうね。

about THEM

馬場圭介
Stylist
馬場圭介

1958年熊本県生まれ。28歳で渡英し、スタイリストの大久保篤志に出会う。帰国後、同氏のアシスタントにつく。独立後はイギリスのカルチャーを活かしたスタイリングで雑誌をはじめ、広告やカタログなど様々なメディアで活躍。2004年にGB(現イングラテーラー バイ ジービー)を立ち上げ、そして今も尚第一線で活躍する日本を代表するスタイリストの一人。

鳥羽伸博
Coffee Producer
鳥羽伸博

株式会社バードフェザー・ノブの代表。コーヒーのスペシャリストとしてBonjour Brown Water、はまの屋パーラー、ALL DAY COFFEE、café 1886 at Boshなどをプロデュースする傍ら、ハワイで自家農園も運営。2014年には自身のお店「TORIBA COFFEE」がオープン。厳選した豆によるオリジナルコーヒーを提供し、美しい道具も揃えたコーヒー生活を楽しくするショップ。


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