HELLY HANSEN and some creators 03

THE QUIET CLAIM “創り出す”人たち
手作りの無添加ピーナッツバター。

映像・写真:松原裕之 編集:kontakt
カバーデザイン:菅谷幸生
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「九十九里に面白いスケーターがいる」。こんな話を何度か耳にしていた。穏やかな海岸線が続く千葉県・九十九里町。古くからいわし漁が盛んなこの町は、同時に農業の町でもある。豊かな自然に囲まれたこの町で、名産の落花生を使ったピーナッツバターブランド《HAPPY NUTS DAY》は生まれた。少し肌寒くなった10月、ブランドを主宰する中野 剛さんに会うため、車を走らせた。

スケート仲間と始めた地場”DIY”産業

取材当日、渡された名刺には“アートディレクター”という肩書きが。中野さんは、ピーナッツバターを作っている人、というだけではないらしい。彼の活動の本質を知るため、ある1日を追った。

「元々は3人で始めたんです。スケート仲間だった村井が九十九里の出身で、何度か九十九里で遊んだりしていたことがあって、その時のふとした会話で名産の落花生がすごいスピードで衰退しているという話を聞いたんです。で、何かできないですかね?という話になって、『じゃあ、ピーナッツバター作ってみる?』って。はじめは本当にちょっとしたきっかけでしたね」。その後、10年ほど食のブランドを手がける錦さんを仲間に加え、すぐに農家を営んでいる村井さんの実家で落花生作りの手伝いを始めたという。

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中野さんは、商品のパッケージやHPのデザインなども手掛けている。

「一番初めに僕らが商品を発表したのが、2013年に森美術館で行われたスヌーピーのピーナッツ展という展覧会だったんです。その催しの物販としてピーナッツバターを販売するという話を聞いて、それを企画している会社の社長さんに会いに行ったんです。正直、まだちゃんと作れていない段階だったんですけど、作れます!っていうプレゼンをして、任せてもらえることになった。そこから、どうしよう?って(笑)。まずは量産できる工場を探して、何度も試作を繰り返して、本当にギリギリのタイミングでなんとか最初の発注だった5000個を納品することができたんです。その後、すぐに追加のオーダーが入って、結局3ヶ月で3万個作った。これが最初の製作でしたね」。

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九十九里の工場にて。《HAPPY NUTS DAY》のためのラインが組まれている。

落花生の業界は古くからの農家が多く、製作を始めた当初はなかなか理解してもらえない苦しい日々だったという。「スヌーピー展の時は、落花生の仕入れが1トン単位だったんですけど、最初は詐欺だと思われて(笑)。いろんなところに電話するんですけど、僕らが電話する前に、詐欺が横行してるっていう連絡網が農家さんたちの間で回っていたり。分かってもらうのに苦労しましたね。ただ、実際、僕らも農家さんの大変さや苦しみをまったく知らなかったので、まずは自分たちから畑に出向いて、作業を手伝ってということをしていました。はじめは趣味の延長だろうって相手にしてもらえなかったんですけど、今では色々と教えてくれる関係になりましたね」。

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近所の卸先には工場から直接、手持ちで配達している。

留学で学んだ、コミュニケーションの膨らませ方

「日本にはすごいものがいっぱいあると思うんですよ」。取材中、彼は何度かこう口にした。古くからの伝統や文化、そしてそこから生まれたプロダクトをデザインというフィルターを通して世界に発信したい。その思いの発端は、高校生の頃の留学経験から生まれたという。「中学の頃からスケートをしていて、どうしても本場で滑ってみたくてNY州のイサカっていう小さな町にある高校に留学したんです。でも、NYが寒いって知らなくて、半年くらいスケートができない時期があった。で、お金もなかったんで、スケートの板に絵を描き始めた。それがきっかけで友達もすごく増えて、絵やスケートでコミュニケーションって取れるんだっていうことを知ったんです。それがきっかけで、デザイナーやアートディレクター、ビジュアルコミュニケーションという分野に興味を持ち始めました」。帰国後、美術大学に入学した中野さんは、卒業後、広告代理店でデザインの仕事に従事し、後にフリーランスのアートディレクターとして活動を始めた。

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「海外での経験を経て、じゃあ、自分に何ができるかって考えたら、やっぱり生まれ育った日本を軸に活動したいと思ったんです。デザインやビジュアルコミュニケーションを通して、日本の素晴らしさを世界に伝えたい。そういう意味で、新しいチャレンジとして、今後ドイツに日本の食を定着させるっていうプロジェクトを始めます。なので、ドイツと日本を往復する生活ですね。とは言っても、《HAPPY NUTS DAY》もあるので、僕がいなくてもブランドが回る体制を整えています」。

体制とは、ピーナッツバターの製作における工程を九十九里で生活する人たちと分業すること。そのひとつに、障害を持つ人の施設に依頼している梱包、発送の作業がある。「ここ最近ですね、お願いするようになったのは。仕事は、やりがいを覚えてくれる人にお願いしたいというのがずっとあって、シンプルにその理由から。ピーナッツバターを袋に入れて、発送伝票を貼って、“ありがとうございました”と書く作業でも、障害を持つ方にとっては結構ハードルが高かったりするんですよ。でも、練習すればできるくらいのハードルだった。だから、これは是非お願いしたいと思って相談したんです」。

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「今、九十九里だけで言っても農家さんたちがどんどん減ってるんですよ。そんななか、こうやって6次産業で、農業の価値を人に伝えていけるんだっていう説得力を強めていけば、また日本の農業自体が元気になるんじゃないのかなって。日本の魅力を現代的にリデザインすることは今後より大事になってくると思うし、今後もそうした活動を続けていきたいですね」。

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about him

Art Director
中野 剛

千葉県・九十九里の落花生を使ったピーナッツバターのブランド《HAPPY NUTS DAY》を主宰。日本の文化や優れたモノゴトをデザインやビジュアルコミュニケーションの力で世界へ発信する活動を続けている。
HP : HAPPY NUTS DAY


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