LIVE IN LIVE

toe 山㟢廣和というスタイル

写真:佐藤康気 インタビュー・文:佐久間 裕美子
カバーデザイン:菅谷幸生
BOOKMARK
toe 山㟢廣和というスタイル

年前に、もう今はなくなってしまったウィリアムズバーグのGlasslands Galleryで初めてtoeのライブを見た。初めての全米ツアーだった。ライブが終わって、メンバーの山㟢廣和さんと立ち話をしていると、顔を真赤にした若い男子がやってきて、直立不動の姿勢で「アメリカにきてくれてありがとうございました」と日本語で言った。これだけ短い文章なのに、節の切り方がおかしかったから、その気持を伝えたくて一生懸命練習したんだろうと思った。音楽のパワーはそういうところにある。そして今年7月、toeは西海岸からスタートし、ワシントンDCで終わる全米ツアーを敢行した。最後のショーを終えた数日後の山㟢さんを、ブルックリンでキャッチした。

Dialogue in New York
Hirokazu Yamazaki(toe)× Yumiko Sakuma(Writer)

佐久間:2度目の全米ツアー、おつかれさまでした。今回は15都市をまわったんですよね。

山㟢:前回は10弱くらいだったかな。今回は15都市。

佐久間:全体的にどうでした?

山㟢:前回のツアーで、大都市でのショーがいくつかソールドアウトになったんですけど、そうすると急に待遇がぐんと良くなる。日本だと、前回1200人入ったからといって、次はもっと大きい会場になるとか、ギャラが変わるとかはないけど、アメリカではあからさまに変わるんです。会場も大きくなったし、会場によって出してくれるギャラの金額もまったく違う。

佐久間:前回のニューヨークのショーのときに、初めてのショーなのにソールドアウトになっていて驚いたんですが、アメリカのオーディエンスは、どうやってtoeを見つけるんでしょう?

山㟢:これまではYouTubeなどだと思います。アメリカではここ何年か、90年代エモのリバイバルのようなことが起きていて、いくつか僕らが好きなレーベルがあるんですが、もともとボストンにあって、最近サンディエゴに引っ越した、Topshelf Recordsというレーベルがあって、そこからも音源を出しているんです。だから最近は、それを通じて、チェックしてくれている人もいるでしょうね。

佐久間:今回のツアーは、DJ starRoがずっとオープナーをやっていましたよね?

山㟢:実は、starRoはうちの奥さんの大学時代の友達の旦那さんで、昔からの友達。toeの欧米進出は、2012年にヨーロッパツアー、2013年にアメリカツアーがあって今回なんだけど、レーベルとやりとりしたりとか、そういう細かい契約の話はよくわからないから、英語圏ではバイリンガルの彼に間に入ってもらっていた。その流れで、海外行くのに、ツアーマネジャーとして参加してくれていたんですね。starRoは、ちょっと前まで会社員をやりながら、自分で音楽を作ってたんだけど、SoundCloud界隈で話題になって。そしたらその後、Soulectionっていうレーベルからオファーがあって、バババっと有名になって、今はフルタイムで音楽活動をしているんです。

DJ starRo氏ボストン・Brighton Musicでの公演もすべてソールドアウト
「楽しいなと思う環境で長くやりたい。おじいさんになっても」

佐久間:アメリカで何かが拡散されるときのスピード感には、私もよくびっくりさせられます。

山㟢:アメリカだとヒットするとギャランティが全然違うみたい。たとえば誰かのプロデュースをやるとか客演するとか、アメリカだと結構ちゃんとビジネスとして動けるような金額をもらえるようになるっていうのがすごいなぁと思う。

佐久間:今回は、アメリカ横断のはずなのに、南北の動きも多くて、ものすごい移動距離でしたよね。

山㟢:前より車も大きくなって、ちゃんとした宿に泊まれたり、環境は前よりも良かったんだけど、移動だけはどうしても辛いですね。

佐久間:日本だと3時間走るくらいでも相当遠いという感覚なのに、アメリカだとときには1日9時間移動をしながら、毎晩ライブをやるってすごいことですよね。

山㟢:そうですね。ブッキングしてくれるエージェントからすると、大都市に行ければいいんだろうけれど、せっかく日本からきているし、もったいないからって合間の日程うめてくれている。でも(アイダホ州の)ボイジーとか行ってみたら、お客さんに「何でわざわざここに来たんだ?」って思っちゃたりとか。

佐久間:ちなみにボイジーはどことどこの間だったんですか?

山㟢:シアトルとソルト・レイク・シティの間。全然近くない(笑)。

今回のアメリカツアーを共にしたバンツアースケジュールのメモ書き

佐久間:ソルト・レイク・シティとボイジー以外は、ソールドアウトだったわけですけど、ニューヨークのショーには、わざわざノルウェーから来たという熱烈なファンもいた。これだけ盛り上がると、次いつ来るんだろう? となると思うんだけど、これからどうなっていくんですか?

山㟢:基本的には、海外をベースにとかいうことは全く考えていなくて、今情報はいくらでも、どこにいても入るから、日本にいながらやっていければいいと思ってます。もともと、すごく大きなところで何万人の前でやりたい、という感じではないから、楽しいなと思う環境で長くやりたい。おじいさんになっても。だから特に、次はどうしたいという思いはないんだけど、常に同じ感じでもいいからずっと物事が動いて行く方がいいかなとは思っていて、それでだんだん待遇が良くなるなら理想的かなって。
 インターネットより前の世界では、とにかく情報がなかったから、場所によって音楽のレベルが違ったかもしれないけれど、今は、アメリカのバンドだからかっこいいとかっていう垣根はだんだん低くなってきているでしょう。逆に欧米人たちも、自分の好きなタイプの音楽を、日本のバンドだろうが台湾のバンドだろうが同じ耳で聞いて、よかったらいいし悪かったら悪いという感覚の人たちが多い。だから僕たちも海外でライブができるんだなと思う。

「人に謝ってる時に、やっぱりこれがないとダメだなって思う」

佐久間:たとえば山㟢さんはインテリア・デザインの仕事もしていて、(ベースの)山根敏史さんはブランド(Ficouture、So Far)をやっている。どちらも大変な仕事だし、責任は年をとればとるほど大きくなると思いますが、音楽も仕事も需要が上がっていく時、体力的に大変になったりはしませんか?

山㟢:あまり考えたことはないけど、みんなバンドを始めた頃は独身だったのが、結婚したり子供ができたりしているから、それだけお金は必要にはなってくる。だから仕事もうまくいけばいいけど、そんなに儲からないので、その分徐々にバンドから入るお小遣いが増えていっているのはいいかなって。

佐久間:実際、ミュージシャンとしてレコーディングがあったり、ツアーやライブがあって、でも翌日には、仕事に戻るってどんな感じですか?

山㟢:ライブでうわーって盛り上がって、でも終わって翌日仕事しているときには、実際に電話で「すみません」って謝ってばっかりいる。でも、人間、人に謝ってないとダメなんじゃないかなという気がしていて。音楽って人に見せて、リアクションがダイレクトにくる表現だから、盛り上がるとそのときは上がるんだけど、それだけやっていると、そんな人になりそうで。それでもいいんだろうけど。人に謝ってるときに、やっぱりこれがないとダメだなって思う。

佐久間:謝るのって、だいたい遅れに関してとか?

山㟢:そうですね。(遅れたら駄目なんです)あとは、業者さんに「もう少しこれこれこういうふうに、やってくれない?」ってお願いしたりとか。

佐久間:山㟢さんは、二人のお嬢さん男手ひとりで育てていますよね。インスタグラムを見ていると、仕事をして、音楽をやって、それで毎日ちゃんとご飯も作ってあげている。それは自分の中でのバランス的に、苦しくなることはないですか?

山嵜:常に苦しいですね。でも人間生きていくことはだいたい苦しいことではあると思う。苦しいこと9割、いいこと1割くらいだから。子供をつくったのは自分だし。親が勝手につくってるわけだから。奥さんが死んでしまったのはしょうがないし。「でもやるんだよ」です。それしかない。

佐久間:お子さんが見に来ることは?

山嵜:あります。でもあまりないかな。ちゃんと(面倒を)見てくれる人が一緒に来てないと、ライブやる時に集中できないので。

佐久間:お父さんが音楽をやっているということはわかってる?

山㟢:わかってます。Instagramで上げている料理とかも、ただ自分のモチベーションを上げるためだけにやってるんです。きれいに作ろうとか思うじゃないですか。

佐久間:すごくきれいでびっくりする。ここの家のご飯うらましいって思いながら見てます(笑)。

山㟢:適当ですよ。休みの日も、二人でおばあさんのところ行ってこいって言ったりするしね。子供も結局1人の人間で、自分のものではないから。僕が小さい時、お父さんとかお母さんとか、すごく絶対的存在な感じがしてたよね。でもそういう考え方が僕はあまり好きではなくて。「俺も(父だけど)人間だからそんなことできないし」とか「俺はわからないからお前が勝手にやれ」って普通に言っているし。結局、子供にこうなって欲しいとか、みんなそれぞれあるだろうけど、最終的には思ったとおりには、絶対ならないじゃないですか。
 自分の親も僕にどうなって欲しいとか思ってたかもしれないけど、多分まったく違う存在になってる。結局、親ができることはすごく少なくて。例えば、自分の子供を野球選手にしたいから、小さい頃からプロ選手になるための野球をやらせるとか、親の理想に子供をつき合わせるのって、なんか可哀想だなと思ってしまって。イチローみたいな成功例もあるんだろうけど。もし自分が子供の立場で、親にやらされてるとなると、うまくいったら楽しいだろうけど、うまくいかなかったら辛いだろうし。どちらかというと、僕はあまりそういうことはできない。人間的にも大してできることがない。だったらできることは何かというと、楽しそうにしてること。大人になって、自分でいろいろできるようになったら面白いよとか、自分のやりたいことをやっていたらそれなり評価を得たら嬉しいよねとか。それを見せることしかやることがないような気がしているので、とりあえずそれを頑張って実践してます。親として足りないところもいっぱいありますけどね。学校の給食費が、郵便局からしか引き落とされなくて。郵便局、なかなか行けないから、いつも入れてくださいって催促されたりさ。「払うことは払うけど銀行はダメなんですかね?」「郵便局なんです」っていうやりとりしたり。そういうことが日々あって、世間的に「ちゃんとした親御さん」みたいなことは全然出来てないと思う。

>> 次ページ 「大人になったら見せてあげたいこと」

1 2

FOLLOW US

pickup JOURNALS