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二十八歳男、映画狂ゆえ。
「映画をみていないと酸欠気味になってしまう」

写真:小林直人 カバーデザイン:菅谷幸生
文:黒澤卓也 編集:kontakt
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二十八歳男、映画狂ゆえ。<br />「映画をみていないと酸欠気味になってしまう」

演技派俳優として注目を集める柄本 佑さん。映画をはじめ、ドラマや舞台など数多くのメディアでその個性的な演技を披露する彼は、演者となる遥か以前より映画に魅せれられた男のひとりだ。「映画は酸素のような存在」。そう語る役者に訊いてみたい。雨と映画、そして映画との付き合い方について。

「雨は映画の余白」

「映画からどうしようもなく映画というものを感じる」と言う柄本 佑さん。それは、虚像の世界にこそもたらされる豊かさがあり、現実ではない物語や演出に心が踊るからだと。もちろん、劇中の雨に対しても同じことが言える。「映画にとって雨はすごく重要な存在だと思います。劇というものを盛り上げる要素として、映画の歴史が作ってきたひとつの装置です。あえて降らせるものだからこそ、昔からそのタイミングというのは研究されてきて役者の感情を代弁したり、ストーリーの情感を表したりしている。例えば、悲しみの果てに雨にうたれている女性を映し出すことで、顔が見えてなくても、きっと涙を流しているんだろうなと想像させる効果がある。ある種、泣いている顔という事実を見るよりも、見えない涙を感じ取る方が深い悲しみが伝わってくる。これは雨が結末までの余白となって、観る人に想像させる余地を与えているからだと思うんです。ストーリーと雨が訴える感情に気付けたとき、そこには大きな感動があるんですよね。そういった意味で映画の雨には秘められたロマンを感じますね」。こうした雨の物語は、現実ではあまり起こり得ない出来事。だからこそ彼は映画のなかで降る雨に憧れを抱いているという。

「雨との距離感が生む新鮮な気持ち」

「僕はちょっと女子的な部分があるんです。天候がピーカンから雨に変わったとしたらその気圧の変化によって頭や腰、首などが痛くなって起き上がれなくなってしまうんです(笑)。テンパなので髪の毛もぐるぐる。気持ち的にもイライラしているし、考えもまとまらない。雨によって何もかもが分散してしまうんですよね。奥さんもその状態になると話しかけてこない(笑)。とにかく雨に向いてない体質なんです」。映画の雨に憧れる反面、私生活では大の苦手。「僕にとって雨に降られる唯一の時間が、俳優をしているときだとも言えますね。ドラマ『若者たち』(2014)でも雨のなかで殴り合うというシーンを演じたこともありましたが、普段雨と距離を置いている生活をしているからこそ、雨のなかで演じることですごく爽やかな気持ちが芽生えたりもする。雨に関わらず、普段の生活では距離を置いているものは、役者として距離を縮めるのが僕にとってはちょうどいいんでしょうね」。

「俳優で在り続けるには、日常をおざなりにしないこと」

「今では映画自体が生活の一部になっていますが、キッカケは自分の家庭環境にあったんです。親父が俳優ということもあり、だいたい映画の話しをしているか、家にいないかのどちらかで僕の学校生活について聞いてくることなんて一度もありませんでした。そんな親父と会話するためには、映画を観ておかなければならなかった。それが映画との付き合いの始まりですね。あの作品を観てきたと言えば、親父が会話に食いついてくる。だから昔から生活サイクルに映画が存在していたんですよ。趣味じゃなくて生活の一部として。それが特殊な環境だということは、周りの友達と話すまで気が付きませんでしたね(笑)」。そんな家庭環境で育った彼は、映画にのめり込むだけでなく次第に親父の背中を追うようになった。「俳優になったのは、母親のマネージャーが『美しい夏キリシマ』(2003)という映画のオーディションに応募したことがきっかけ。当時、応募のことは知らされていなかったので、オーディションを受けたときは俳優の道を歩んでいくんだなというよりは、一映画ファンとして、監督や現場を見ることが出来るかもしれないといった想いの方が強かったかも知れないですね。運よくオーディションは受かることができました。実際に俳優として映画を体感してみると、それが思った以上に楽しかったんです。当時、中学生だった僕には到底味わえない緊張感や刺激があった。ただ、そのおかげで普段の生活に面白味を感じることができなくなってしまったんですけど。そこから本格的に俳優活動を始めることにしました」。デビュー当時、中学生だった彼は今年で28歳になった。今、俳優として在り続けるために想うこととは。「昔から当たり前のように映画をたくさん観てきましたし、これからも観続けていくと思います。常にいいお芝居と映画を観ていないと僕は酸欠気味になってしまうんですよね。でも、映画を好きという気持ちと同じぐらい、日常をおざなりにしないということを大切にしています。変な話、映画って生活の上で必ず必要かと問われるならばそうではないですから。そういった意味で僕は社会からすごく離れた位置にいると思います。そのことを弁えていないと、視界がどんどん狭くなっていく気がするんです。だから、僕は演じること以外にたくさんある日常的なことをおざなりにしないようにしています」。俳優としてだけでなく、人としてどうあるべきか。そんな自問自答の日々が、人を魅了する彼の演技力にも活かされているのだろう。

柄本佑さんが選んだ雨にまつわる3作品

01.『浮草物語』
(小津安二郎/日本(松竹)/1934)

浮草物語製作会社の理念を反映した雨の扱い方
「小津安二郎が監督を務めたドサ廻り一座の浮草稼業ぶりを描いた作品。こちらは1934年に公開された『浮草物語』(松竹)ですが、1959年に小津自身がセルフリメイクをした『浮草』(大映)もあります。どちらも本筋の内容は一緒ですが、それぞれ製作した会社によって雨が降っている様子が違うんです。松竹はしとしと、大映はざんざん降りといったように会社によって雨の使い方が決まっている。それは会社が作る映画に対しての考え方やイメージによるものが大きいんだと思います。例えるなら松竹は醤油顔で、大映はソース顔(笑)。松竹は優しい雰囲気作りに重きを置いている。一方の大映はビビッドで芸術色が高い。これら会社としての特徴が雨にも表現されているのが面白いですよね。映画自体も素晴らしい内容なのですが、この雨の違いをそれぞれ見比べてみるのも違った視点で映画を楽しめます。僕が雨と聞いて最初に思い浮かべる映画です」

02.『ピクニック』
(ジャン・ルノワール/フランス/1936)

ピクニック映画の全ての要素が詰め込まれた教科書
「40分という短い作品ですが、映画のお手本と言うべき名作で、サスペンスやアクション、ラブコメディーなどの全ての要素が詰まっています。ストーリーは一家が田舎へピクニックに向かい出会った二人の若者と一家の娘の恋を描いたもので、最後は雨のなか娘と一人の男が森の中でセックスするんです。そして、キスをしたときに娘が泣き、そのときカメラは雨が降っている川を映し出すのですが、その雨の情景に女の情感や執念みたいなものが見て取れました。そのシーンにナレーションで入る“月曜日のように悲しい日曜日がめぐり”という言葉もすごく印象的でしたね。その言葉の終わりとともに何年後かの設定となって、女の子は違う男性と結婚し、再びその場所に訪れてそこで関係を持った男とすれ違うのですが、二人は目線を交わすだけで何も言わずに去って行って映画は終わります。観終わった後、衝撃的でしばらく立ち上がれませんでしたね。これを戦争中に撮ったというから驚きです。間違いなく映画史にこれからも語り継がれて行く作品だと思います」

03.『セーラー服と機関銃』
(相米慎二/日本/1981)

セーラー服と機関銃雨を使った着飾らないリアルな演出
「好きな相米監督の作品です。映画をよく知っている方で、個人的には天才だと思っています。相米監督はこの作品をはじめ、『おひっこし』や『台風クラブ』などでも雨を使っているのですが、どの作品も共通して言えるのは、雨が降るタイミングや理由などがちゃんと納得できるものとして使われています。然るべきときに雨が降って、それがしっかりと作用をもたらしている。この映画では終盤の薬師丸ひろ子さんと渡瀬恒彦さんが歩いているシーンで雨が降り始めます。ここで渡瀬さんが比較的青臭くて恥ずかしい台詞を大声で叫びます。二人の間には降りしきる雨音が響き渡っているので、小声になりがちな恥ずかしい言葉でも必然的に大きな声で叫ばなければ相手に声や想いが届かなかった。この流れが本当に自然なんですよね。そしてこの演出が、言葉を力強く象徴的なものにしているし、シーン自体もロマンチックでちゃんと降るべき瞬間でもあるんです。こういったさり気ない演出が、雨のみならず随所に散りばめられているのが相米映画の醍醐味でもあります。未だに観る度に新しい発見がありますね」

【特集:雨が育む日々のこと】
   ▶︎ Vol.01 幅 允孝 (Book Director)
   ▶︎ Vol.02 若木信吾 (Photographer/Film Director)
   ▶︎ Vol.03 尾崎世界観/クリープハイプ (Musician)
   ▶︎ Vol.04 柄本 佑 (Actor)

about him

Actor
柄本 佑

日本の俳優。東京都出身。2003年に映画「美しい夏キリシマ」でデビューし、同年のキネマ旬報ベストテン新人男優賞、日本映画批評家大賞新人賞を受賞し一躍注目を集める。その後、映画をはじめドラマや舞台など活躍の場を広め、俳優として欠かすことのできない存在としてその演技力が高く評価されている。


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