BEHAVE THE TONE AND WORDS

振る舞う音。
美味しい音楽は平等な不自由から生まれる
尾崎世界観 クリープハイプ (Vocal&Guitar)

写真:濱田 晋 カバーデザイン:菅谷幸生
文:黒澤卓也 編集:kontakt
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振る舞う音。<br />美味しい音楽は平等な不自由から生まれる<br />尾崎世界観 クリープハイプ (Vocal&Guitar)

若い世代から圧倒的な支持を獲得し、日本のポップミュージックシーンを席巻する次世代バンド、クリープハイプ。バンドのギターヴォーカルであり、作詞・作曲を手掛ける尾崎世界観さんは「雨が嫌い」だと言う。そして、それは音楽を生み出す上で必要な感覚であるとも。不自由から生まれる雄弁な音。彼の音楽はどこから生まれるのか? その根幹を雨から紐解く。


「不自由さと豊かさは近い存在だと思う」

「雨は嫌いです。気持ちがどんよりするし、湿気は心地悪いし、靴は濡れる。雨が降っていれば当たり前に起こり得る不快なことだけど、一方ですごく大切なことだとも思うんです。それは、雨という圧倒的不自由というのは人にとって平等だと思うから。幸せの価値は人それぞれだけど、不自由さにこそ共感を覚えることが多い。平等に訪れる不自由があるからこそ、当たり前の日常や暮らしが大切なものだと思えるきっかけにもなるはずだと思います。そう考えると、嫌なことでも必要なことはたくさんある。もちろんすべてがそんな日だったら辛いけれど。僕は、不自由さと豊かさは近い存在だと思っているんです」。平等な不自由さが時に人を豊かにする。そして、それは彼が生み出す音楽にも通じているという。

「選択肢が限られることで創作欲求が湧く」

「僕は雨が降ると極力濡れたくはないので室内に籠る傾向があります。そのために行動範囲が狭くなっていくので、できることが自ずと限られてくる。でも、選択肢が減るということは、減った分や残った分の内容が濃くなっていくことだと思うんです。僕が思う雨と音楽の関係に関しても同じことが言えます。僕は音楽を作る上で、カフェで歌詞を書くとか、お風呂でメロディーを口ずさむといった特定の方法や習慣はありませんが、雨によって変わる行動パターンが作曲に影響をもたらしているのは間違いないですね。雨のことを直接歌ってはいないけれど、それによって限られた選択肢から生まれた曲は今までもたくさんありますし、僕のなかで印象深いものとして残っています。それに、部屋に籠っていると何かを吐き出したくなる欲求が生まれてくるんです。選択肢が限られることで創作欲求が湧くというのも、僕に雨がもたらす大切な作用とも言えますね」。不自由は二面性を孕んでいると言えるだろう。限られることは、別に悪いことばかりじゃない。そうやって別の視点から物事を捉えることが、彼の創作活動の根底を支えている。

「音を奏でることは、自炊すること」

「僕が幼少の頃、家では父親が好きな “かぐや姫”というフォークソンググループの曲がずっと流れていました。聴きたい時、聴きたくない時を問わずいつでも。その頃から音楽がある生活が当たり前で、いつしか自分も音を鳴らしてみたいという想いが強くなっていったんです。最初は一人でギターを鳴らして、次第にグループを目指していった。でも複数の人間とひとつの音楽を作るのは簡単ではなかったですね。何度も解散を繰り返して、ようやくグルーヴ感を感じられたのが今のバンドなんです」。耳に残るハイトーンボイスと心奥に響く叫びにも近い言葉で謳う彼は、自身の創作をこう例える。「まずは自分が聴きたくなるようなものを作っています。メロディーや歌詞に関しても、誰かがこういったことを歌ってくれたら共感や感動を覚えるのに、という想いから生まれています。自分が一番初めのお客さんになって、本当にいいなと思えたら、誰かに伝えたいという気持ちが膨れ上がってくる。僕にとって音楽は自炊するような感覚なのかも知れません。まずは自分が食べて美味しいと思えることを一番に考えて、それが本当に美味しい料理になったら、みんなに振る舞う。それを食べて喜んでもらえたら嬉しい限りです」。まるで目の前にいる人に曲を贈るかのような距離感こそ、多くの人々から共感を得る音作りに繋がっているのだろう。幼少の頃からいつも隣に存在していた音楽のように、クリープハイプの音楽もまた、遠いどこかではなくすぐそばにあるものとして我々を魅了しているように感じた。

尾崎世界観さんが選んだ雨にまつわる3作品

01.『小数点花手鑑』
(小林大吾/フライスピンレコーズ/2014)

少数点花手鑑雨を受け入れることができる心地よさ
「このアルバムは“ヒップホップ以降の吟遊詩人”と呼ばれるスポークンワーズアーティストの小林大吾さんの4作目となる作品です。語りのような言葉のテンポが不規則で、それがどこなく雨のリズムに似ていると思いました。そのリズムが心地よくて、言葉がスッと頭に入ってくるのが印象的です。僕のなかでは、歌というよりは音楽のような感覚で聴いています。雨が嫌いな僕だけど、このアルバムを雨のなかで聴いていると、不思議と雨の嫌な気持ちがなくなるんです。雨を否定して突き放すのではなく、なんとなくしょうがないよと言われているような気がするんですよね。雨の憂鬱さを受け入れられるような気持ちにさせてくれる心地いい音楽です」

02.『ナイルの一滴』
(矢野絢子/ユニバーサルミュージック/2004)

ナイルの一滴憂鬱な気持ちを振り払う生命の歌
「憂鬱な気持ちを振り払ってくれる。そんな心情にさせてくれるのが、シンガーソングライターの矢野絢子さんのデビューアルバムとなった“ナイルの一滴”。発売当初の約10年前から今も聴いている好きな作品ですね。ピアノと歌というシンプルな構成をベースに、アコースティックなサウンドと多彩なアレンジで作られた各曲はどれも味わい深いです。なかでも特徴なのが、矢野絢子さんの歌声。女性とは思えないぐらい豪雨のような凄みを持つその強い歌唱からは、生命力のようなものを感じます。まるで生きて行く上で必要な力を、音楽というかたちで聴く人たちに与えているかのよう。生命力や祈りといった神秘的な力が歌に宿っています」

03.『ベン・フォールズ・ファイブ』
(ベン・フォールズ・ファイブ/ユニバーサルミュージック/1995)

ベン・フォールズ・ファイブ寂しさを抱えた不朽の名作
「僕はあまり洋楽を聴かないのですが、このベン・フォールズ・ファイブのファーストアルバムはお気に入りです。いい意味で型にはまらない少し不安定なメロディーが、寂しさを漂わせていると思います。その哀愁さが雨の気候にも合っているんですよね。軽快なリズムで勢いのある作品なのですが、喜びや怒りではなく、寂しさや悲しみの感情で表現されているのが好きなところです。ピアノを主流に使った音楽だけど、先ほど紹介したパワフルな矢野絢子さんとは正反対ですね。あと、アルバムの3曲目に収録されている“ジュリアンヌ”という曲中にガラスの割れる音が何度か使われているのですが、その音に寂しい衝動みたいなものを感じます」

【特集:雨が育む日々のこと】
   ▶︎ Vol.01 幅 允孝 (Book Director)
   ▶︎ Vol.02 若木信吾 (Photographer/Film Director)
   ▶︎ Vol.03 尾崎世界観/クリープハイプ (Musician)
   ▶︎ Vol.04 柄本 佑 (Actor)

about him

Musician
尾崎世界観

2001年にクリープハイプを結成し、3ピースバンドとして活動を開始。ライブを観たいろいろな人から“世界観”がいいねと言われることに疑問を感じ自らを尾崎世界観と名乗るようになる。2008年メンバーが脱退し、2009年に新メンバーを迎え今の形に。昨年は武道館ライブを成功させるなど、名実ともに日本の音楽シーンを牽引する存在として注目を集める。


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