LEADERS OF NEW ERA

NY フードカルチャー最前線
Vol.02 Carlo Mirarchi from Roberta’s/Blanca(chef)

写真:佐藤康気 文:小松優美 編集:kontakt カバーデザイン:菅谷幸生
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Carlo Mirarchi from Roberta’s/Blanca

ニューヨークの食文化の進化が目覚ましい。テイスティングコースのみ提供というシリアスなコンセプトの店が増える一方で、個性派屋台が参戦するフードマーケットが大盛り上がりと、ハイ&ロウの真逆のベクトルで次々に新しいムーヴメントが生まれている。そんなこの街で注目すべき才能に話を訊いた。ニューヨークから世界へ、シェフが発信する食の哲学とは。

Carlo Mirarchi

Feature02:Carlo Mirarchi from Roberta’s/Blanca(chef)

ブルックリンという地名は、今や世界に波及するブランドだ。豪華絢爛、富を象徴するマンハッタンは人々を圧倒させ、そして憧れを抱かせた。
そのマンハッタンに反旗を翻したブルックリンは、贅を尽くせぬ“負け戦”から、飾らない素朴さこそがクールと逆転の価値を見出し、ユルさを武器に人々を魅了していった。

そんなこの地の食を発展させたのは、他でもないカルロ・ミラーチだ。
2008年、工場跡地やガレージが立ち並ぶ荒涼としたブッシュウィック地区にビッツェリア『Roberta’s』をオープンし、食とは縁遠かった地に美味しい食事を登場させた。そして2012年には、店奥にわずか12席のレストラン『BLANCA』を打ち出し、テイスティングコースのみの芸術的ディナーが熱狂を生み出した。ミシュランの星を獲得し、人気・実力ともにトップに君臨する。

イタリア系家庭に育ち、祖父母が腕によりをかけて作る週末のディナーや、イタリアでのバケーションで舌が肥えたという恵まれたバックグラウンドをもつが、「決してエリートシェフ街道を突き進んできたわけじゃないんだ」とカルロは語る。調理学校にも行かず、ファインダイニングのキッチン経験もない。いわば独学の人、なのだ。

「16歳から地元(ロングアイランド)のイタリアンレストランで修行したけど、大学進学を機に辞めたんだ。親も進学を勧めてきたこともあって、一旦違う世界に身を置きたくなったんだよ」。
意外にも特待生としてNYU(ニューヨーク大学)に入学。

「専門課程を決めずにあらゆるクラスを漫然と取っていたから卒業に苦労したし、褒められたもんじゃないよ(笑)」。考えあぐねた卒業後の進路は、やはり料理人だった。いくつかの職を経験した後、当時チャイナタウンにほど近いLESで人気を博していた「Good World」のシェフに就任。しかしここは、ダウンタウンのクリエイターらが集うヒップなナイトスポットで、正直なところハイレベルなフードを提供する店ではない。

「でもね、美味いと思わせる料理を、いかに効率よく提供できるか、っていう基礎を学んだのはここなんだ。夜な夜なおもしろい人が集まってさ、いい時代だったよ」。

そして、友人たちとともに「Roberta’s」をオープンさせる。
「火元はガスバーナーと電気プレートしかなくてね。他の料理は自宅で作って持ち込む有り様だったよ(笑)。苦肉の策でピザを薪で焼いたんだ。自分たちがブルックリンの食を変えたとか、そんな大それたことは思わないけど、舌に響く美味いイタリア料理があれば、自ずと人が集まるというのは見えていたね」。

今や、この店は平日の昼間から超満員で夜は2時間待ちも当たり前という人気ぶりだ。
マンハッタンはもとより世界から客が訪れ、ブルックリンの奥地に高級車が横づけされる光景も珍しくなくなった。だが、オープン当時も今も、そのカジュアルな店構えは変わらない。


店内は音楽が遠慮なく鳴り響き、古着に身を包んだ若いスタッフが働く。気取らないセッティングで、確かな味をというブルックリンらしさを生み出したパイオニアだ。
「『Roberta’s』では、毎日訪れる客もいて、家の延長にあるような店を意識しているんだ。様々な食材を用いつつ、料理はシンプルに徹してオーバーにならないようにしている」。

連日多くのお客さんで賑わう『Roberta’s』の店内。開放的なテラス席も人気だ。

一方、『BLANCA』は12席だけのエクスクルーシブな店だ。24コースのめくるめくディナーは刺身や燻製肉を多用したコンテンポラリーアートのような皿が続く。
誰もがカジュアルに楽しめる店も大事だが、はじめから終わりまで自分の世界観を投影させたテイスティングコースが受け入れられることは、シェフにとって最上の喜びだとカルロはいう。


『BLANCA』は厨房と対面する僅か12席のカウンター席からなる。

「『Roberta’s』とはまったく異なるプロセスを踏んでいるんだ。ここで過ごす数時間のために海外から訪れる客もいるから、メニューはそういう客を念頭にスペシャルなイベントになるよう心がけている。例えば、コース料理はテンションが一直線に上がっていくことが多いけど、僕はあえてアップダウンのある進行を意識しているんだ。リッチな食感や酸味などを駆使しながら、ちょっとした困惑すら与える料理で、自分の個性を発揮した変化のあるコースになっているんだよ」

ミシュランも認める創造性に満ちた料理が生まれる厨房を覗くと、カルロの脇を固めるスタッフたちは、冗談を言い合いながら皆リラックスした様子。
「カルロはフレンドリーでいいボスだよ。同じ食材を前に幾通りの使い方を提案できる発想力に毎日感銘を受けているよ」とスタッフの1人はいう。タトゥーだらけの腕に色とりどりのキャップと、いわゆる普通のファインダイニングの厨房とはまったく異なる雰囲気がブルックリンらしい。

この地の食文化を成熟させたカルロに、ニューヨークのダイニングシーンのこれからを問うと、
「世界のシェフと交流が可能になった今だからこそ、『Contra』、『Rebelle』のようなヨーロッパモデルを意識した店が増えると思うね」。
とりわけ、フランスや北欧のモダンキュイジーヌからのインスピレーションは大きいのでは、とカルロは教えてくれた。

自身のこれからのゴールはというと、「今と同じことを変わらずやっていたい」と断言。
ビッグプロジェクトが目白押しで、まだまだ躍進を遂げる見込みだが、その真髄はDIYでオープンしたあの日のまま維持したいという。


ちなみに、プライベートでも料理を楽しんでいるかと聞けば、「今、自宅の冷蔵庫にあるのはジュースと水と大量の酒。あとはシガーのみ。バターすらないよ(笑)」。

全身全霊で厨房に立っているからこそ、休みの日は料理から離れるというカルロ。大型バイクで遠出したり、両親に会いに行ったり。無の境地になるツーリングは、一番心休まる時なのだそうだ。

Roberta’s
261 Moore St, Brooklyn NY 11206
www.robertaspizza.com
BLANCA
261 Moore St, Brooklyn NY 11206
www.blancanyc.com

about him

Chef
Carlo Mirarchi

1980年クイーンズ地区出身。母親はパナマ、父親がイタリア系という家庭に生まれ、ロングアイランドで育つ。「Good World」でシェフを務めた後、2008年に3人のパートナーとともに「Roberta’s」を、2012年に「BLANCA」をオープン。食の権威「The James Beard Awards」も認めるNYベストシェフのひとり。


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