ARTICLE OF CRITIQUE 01

SNS時代の極私的な○○論
《mame》から想起する、私たちだけの感性

写真:間部百合、 竹内一将(COVER/STUH)
文:新村有希子 編集:kontakt
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SNS時代の極私的な○○論<br />《mame》から想起する、私たちだけの感性

SNS全盛のいま、ショップやブランド、そして一個人までがメディアを持つようになり、それぞれが多様な価値観によって情報を発信する時代。何を信じればいいのかが曖昧な状況下で、自分自身のスタンダードを失いがちではないだろうか?時代や他人に左右されることなく、自分だからこそわかるモノを批評することで、未来への新たな指針のヒントを見つけたい。

CRITIQUE 01 :《mame》から想起する、私たちだけの感性

先輩たちにとってそれは《sacai》だったり、《HYKE》だったりしたのだろうか。最近このブランドのことをよく考えるのは、友人や同僚との何気ない会話の中で耳にする機会が日々増えているからなのかもしれない。80年代に生まれた同世代のデザイナー、黒河内真衣子さんが手がける《mame》のこと。

服をまとっている状態が私の裸

私が《mame》の服に初めて袖を通したのは3年前。シーズンでいうと、2012年秋冬の展示会だった。別のブランドのPRをしていた女性から「どうしても見てほしいブランドがある」という連絡をもらい、足早に展示会場へ向かったことを覚えている。会場に着くと“現代社会における戦闘服”というブランドコンセプトや説明を聞きながら、服一着一着を穴が空くほど見て触わった。なかでも私の目を釘付けにしたのは、トルソーに着せられていた1着のスカート。すみれ色の繊細なレースの表面に、淡いグラデーションの糸でふっくらとしたテクスチャーの刺繍が丁寧に施されている。淡い色づかい、そしてレースに刺繍。要素だけを抽出するとフェミニンなアイテムだが、デザインから感じるのは「かわいいだけではない」という確固たる主張だった。とにかく彼女が作っているものを着てみたいという衝動に駆られ、ワンピースからパンツまで、一通り試着させてもらった。

それは同時に、はじめて自分の身体に色香を感じた瞬間でもあった。鏡に写った自分が、今までに見たことのない姿をしていてセクシーだった。私の体型を簡単に説明すると、胸は小さく華奢で寸胴。欧米ファッションに憧れはするものの、グラマラスとはほど遠い体を自覚していた私は、“色気”を漂わせることをいつからか半ば諦めていた。《3.1 フィリップリム》や《カルヴェン》でサイズ感の合ったワンピースを見つけることはできても、ドレスを色っぽく着こなすことが難儀。そこで、数年前に流行った“大人カワイイ”ブームを引きずりながらロリータ調を匂わせることで色香に似たモノを醸し出そうとしていたが、はっきり言って迷走していた。25歳や30歳など、年齢の節目が近づくと自分のファッションのテイストが分からなくなるというのは、女性ならば共感する人も多いのではないだろうか。自分自身がそんな矢先だったのだ。30歳を目前にして《mame》という服を知ったことが、なおさら嬉しかった。「服を着ているときが一番美しい。女性がそう思われる服じゃなくちゃ、と思うんです。人間は服を着ている時間の方が長いんだもの」。展示会場で黒河内さんが口にしたこの言葉に、すべての理由が詰まっている気がする。

先にも書いたように《mame》の服はフェミニンなのだが、では「かわいいだけじゃない」のは何故だろう。その理由として、初見で感じたある種の違和感と、背景にあるストーリーについて考えてみた。違和感とは、西洋文化の象徴であるドレスやスカートに、日本人ならではの感性と伝統的な技術が組み合わさっていることの妙。ディテールについて聞くと「刺繍はすべて群馬県の桐生の職人さんにお願いしています。レースや絹の上に施すときは、昔着物にそうしていたように、溶ける紙を重ねてから縫うという手法で遣って頂いています。間に紙があった分が、こうして糸をふっくらさせるんです」と日本の伝統的な手法を取り入れていることを教えてくれた。思い返せばこれまで、和柄や織物を使った洋服に惹かれたことはなかった。そんな私の価値観を覆してしまうところにも《mame》というデザインの巧さがあり、日本人女性を自然と共感させてしまう力がある。

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about her

Editor
新村有希子

1986年、神奈川県生まれ。「Numero TOKYO」エディター、ウェブエディター。服飾専門学校卒業後「MilK japon」でキッズファッションのスタイル提案とビジュアル製作に携わり、2012年より女性誌へ。「Numero TOKYO」公式ウェブサイトにて、服や人、本や映画を切り口にした東京カルチャーのトレンドを配信中。インスタグラム:@yukikoitoo
www.numero.jp


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