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ある斧が変えたヒップの潮流

写真:神藤 剛 編集:kontakt
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ある斧が変えたヒップの潮流

 初めて、《ベスト メイド》の斧を見たのは、『TOOLS』という、”新しい普遍”というテーマで、タイムレスな日用品を厳選して紹介する単行本を制作するためにリサーチをしているときだった。ニューヨーク在住の友人から、「斧に興味ある?」っていうメールともに、動画のリンクが送られてきた。



 まさに新しい普遍性を持つツールだった。そしてこの旧き良きアメリカの雰囲気は、男らしくもあり、そして同時にロマンチックだった。不器用な男ほど魅力的に見えるように、道具もまた機能性が限られれば限られるほど、美しい。だからこの斧に惚れ込んでしまい、ファウンダーであり、プロダクトデザイナーとしてのピーター ブキャナン・スミスに連絡をし、実際の斧をFEDEXで編集部まで送ってもらったのを覚えている。
 いつか日本で展開することを望んでいたが、ようやく神楽坂にあるキュレーションストア、『la kagu』 にて、本格的に日本での展開をスタートすることを耳にし、その準備のために来日していたピーターと話すことができた。

実体験から生まれるプロダクトの機能美

 取材の当日、ピーターは、新潟県の三条から帰ってきたばかりだった。家族で経営を続ける刃物の工房を訪れていたらしい。
 「ニューヨークにいる誰よりも彼らは洗練されていると思ったね。その洗練さっていうのは、クオリティはもちろん、デザインの大切さをもきちんと理解しつつ、作っているものがすごくミニマルなところ。それに感動した。日本人は、世界でも有数の消費者だと思っている。ショッピングに来ている人たちとかを見ていると、物の価値をしっかり見ているように感じるし、アメリカ人よりもネットに依存していないだろ? 実際にモノに触れてみて、本当にそのお金を払うだけの価値があるかどうかを見極めている。ちゃんと実物を見る楽しさとか、時間の使い方を理解していると思うんだ。この日本の消費文化が、三条で出合った人たちのような“洗練さ”の根本にあるんじゃないかな」
 ピーターもまたネット社会に依存することのないクリエイターである。物事を可能な限りリアルに体験し、そこで培った経験や知識を《ベスト メイド》のプロダクトに落とし込んでいく。チームで毎年必ずと行くというキャンプもまた重要なフィールドラーニングなのだ。
 「今でもキャンプは欠かさず行っているよ。ニューヨーク州のアップステイトへは、週末とかにパッと気軽に行く。それにアラスカやカナダ、去年はアルゼンチンのパタゴニアにも行ってきた。インスピレーショントリップであると同時に、自分たちで作った道具が、どんな場所で使えるモノなのか、どんな状況で使えるモノなのかを、やっぱり試してみたいんだよね」
 カラーバリエーションも豊富なうえ、デザインコンシャスなグラフィックから、一見“それだけ”の斧にも見えてしまいがちな《ベスト メイド》の斧。だが、この斧一本一本には、壮大なストーリーが込められている。20世紀初期、斧の刃を制作するマニファクチャーが200〜300社ほど存在していたのだが、現在では3社しかなく、その中でも、もっとも歴史のあるマニファクチャーに、デイトン型という、ヘッドが平らで幅広い形を採用した刃の制作を依頼している。さらに柄には、アパラチア山脈に生息するアメリカンヒッコリー(杉の木)を採用し、力を入れずに握れるもっともカンファタブルなカタチにシェイピングされているのが、《ベスト メイド》の斧なのである。
 「確かに流行に敏感なヒップスターたちも買ってくれることも嬉しい。でも、それ以上に木こりとか、ファーマーといった生活のために使っている人たちが、この斧のパワーなどといった機能性を評価してくれて使っているのはすごく嬉しいよね。今はニューヨークだけではなく、ロサンゼルスや東京はもちろん、生活のためのツールとして使ってくれている人が多いミネソタやモンタナ、それにテキサスとかからもオーダーがある。カナダとオーストラリアといった国外からのオーダーもある。もちろん壁にかけてインテリアとして楽しむ人がいてもいいと思うし、色々な国で、色々な目的で使われていると想像するとやっぱり嬉しいよね」

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