LEADERS OF NEW ERA

NY フードカルチャー最前線
Vol.01 Ignacio Mattos from ESTELA (Chef)

写真:佐藤康気 文:小松優美 編集:kontakt
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ニューヨークの食文化の進化が目覚ましい。テイスティングコースのみ提供というシリアスなコンセプトの店が増える一方で、個性派屋台が参戦するフードマーケットが大盛り上がりと、ハイ&ロウの真逆のベクトルで次々に新しいムーブメントが生まれている。そんなこの街で注目すべき才能に話を訊いた。ニューヨークから世界へ、シェフが発信する食の哲学とは。

Feature 01:Ignacio Mattos from ESTELA (Chef)

今、ニューヨークで最もセクシーともてはやされる職業は、シェフかもしれない。
レストラン批評サイトやSNSの台頭で、食は紛れもない“トレンド”だ。10年前まではスタルクデザインの大箱ダイニングに、アジアンフュージョン料理なんて見かけ重視のレストランがもてはやされていたが、今は違う。小ぢんまりとした店構えで、それぞれのシェフの才能を凝縮させた料理という名の作品を享受する、そんな店が主流になっている。食に目覚めたニューヨーカーは、シェフに敬意を抱き始めたのだ。

なかでも最も注目に値するシェフが、イグナシオ・マトスだろう。ウルグアイ出身の35歳。
『Il Buco』、『ISA』といった人気店でシェフを務め、2013年にオープンさせた自身の店『ESTELA』は“全米で最もホットなレストラン”と呼ばれ、オバマ大統領も訪れたほど。メディア取材に追われる日々というのも納得の人気ぶりだ。

「僕がセクシーかどうかはさておき(笑)、料理人への注目が集まることは嬉しいよ。調理学校に入学した当時、ウルグアイでは料理人になるって選択は全然クールじゃなかったから。イタリア系グランマの家庭料理で育った僕にとって、料理の道に進むことは自然な流れだったけどね」

学生時代からスターシェフのフランシス・モールマンにヘッドハンティングされ、有名レストランで修行してきたが、料理へのこだわりは一貫している。アリス・ウォーターズの『シェ・パニーズ』にいたこともあるだけに、シンプルで素材の味を重視するのが得意なのだ。世界の食文化に触れ、そのエッセンスを巧みに取り入れてきたイグナシオだが、最も影響を受けているのが和食だという。「シンプルに見えて、納得の美味しさを発揮する和食は僕の理想だね」。

例えば、ESTELAの看板メニューのひとつ、ヒラメの前菜。塩締めにしたヒラメを、あるときは柚子胡椒とコールラビで、またあるときはアボガトと、といった具合に、毎回多彩なバリエーションを見せてくれる。今回は、ヒラメを細かくチョップしてグレープフルーツで酸味づけし、クリーミーなウニとのコントラストを披露。塩締めしてもヒラメのシルキーな食感がいきており、意外な組み合わせも素直においしいと思わせる。

塩締めにしたヒラメにウニを潜ませた前菜$19。隠し味のグレープフルーツがヒラメの塩気と好相性。

「好きか・嫌いかは50:50の確率だけど、どうやったら限りなく100%に近い人に好きって言ってもらえるか、いつも考えている。だからって、定番のハンバーガーを出すのもつまらない。何気ない料理だけど、そこにちょっとの手間やアイデアを加えている」。

ガストロノミックな店に行けば、奇をてらい過ぎて美味しいかどうかよくわからない料理が出てくることも少なくない。有無をいわさぬシェフの強気のクリエーションに、辟易させられることも。そんな経験を真っ向から否定するのが、イグナシオの料理だ。「料理のビジュアルって過大評価されていると思うんだ。目をつぶって食べたって、美味しいものは美味しいじゃないか」。

派手な見た目じゃないけれど、自分らしさが見える料理。それは前衛的で高尚なものではなく、ぶれない味のさじ加減こそが魅力なのだ。確かに料理はアートと呼べるかもしれないが、美味しくなければ意味がないとイグナシオは語る。

「あるとき、ラビオリを食べていた男性客が皿に口をつけてソースをずずっと飲み干したんだ。それを見て、思わず彼のもとに駆け寄ったね。『私はシェフです。そんな風に食べてくれてありがとう』って」。料理の見た目や小うるさいマナーなんて気にしない。人が本当においしいものに触れた時の衝動は、もっとシンプルなのだから。

ポロねぎのローストといただくステーキ$31は、ジューシーな肉の旨みが絶品。ごくシンプルに徹しているからこそ、シェフの力量がうかがえる。

作る料理同様、イグナシオがオフの日に通う店も、そんなぶれない美味しさを提供する名店が多い。『Minetta Tavern』のステーキや、『Franny’s』のイタリアン。出勤前は『El Rey Coffee & Luncheonette』でサラダボウルを食べるのがお気に入りだ。

Minetta Tavern
113 MacDougal St NY 10012
+1-212-475-3850
Franny’s
348 Flatbush Ave Brooklyn NY 11238
+1-718-230-0221
El Rey Coffee & Luncheonette
100 Stanton St, NY 10002
+1-212-260-3950

だが、最も足繁く通うのは、和食や寿司の店。ニューヨークの寿司レストランの話となると、まったりとした口調から突然前のめりに。『牛若丸』や『安田』といった老舗に心酔している様子。理想とする“人生最後の晩餐”を尋ねてみると。

「スシだよ、スシ!」

どうやらグランマのトマトソース、ではないらしい。

今一番行きたいところは、ずばり日本。築地で寿司を食べたり、食材でポップアップレストランをしたり、来日ツアーをドキュメントしたら面白いのでは?

「それ最高!! そんな話があれば、今すぐにでも行っちゃうね(笑)」

ESTELA
47 E Houston St, NY
TEL +1-212-219-7693

about him

Chef
Ignacio Mattos

ウルグアイ出身。調理学校在学中から有名シェフFrancis Mallmannに認められ、その後アルゼンチン、ブラジル、スペイン、イタリアなど世界各都市のキッチンで研鑽を積み、アメリカ屈指のダイニング「Chez Panisse’s」でも活躍。NYでは「Il Buco」「ISA」でシェフを務め、2013年に自身の店「ESTELA」をオープン。プライベートでは1児の父で、趣味はサイクリング。


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