THE DREAM COME TRUE!?

続・少し先のリアルなこと

イラスト:青木たまみ 写真:小林直人 文・編集:川島拓人
BOOKMARK
続・少し先のリアルなこと
若林恵 (WIRED編集長) × ムラカミカイエ (クリエイティブディレクター)

10年、20年後も先のことを語り、希望や失望を感じることは、光のようなスピードで進化する現代社会においてはナンセンスなことだろう。それよりも、今起こっていることや、まさに起こりそうなことを考えたい。今後のライフスタイルのあり方、ビジネスのあり方、そして日本のあり方。WIRED編集長、若林恵氏とテクノロジーによってファッションを進化させるSIMONEムラカミカイエ氏による放談、後編。(前編はこちら

文化の産業化から、産業の文化化へのシフト

若林恵(以下ワカ):ところでカイエ君、今ハーバード大学で、建築家の重松象平さんが、食と都市の研究をやってるんだけど、知ってます?

ムラカミカイエ(以下カイエ):いや、知らないです。

ワカ:すごく面白いんですよ。食っていうのは、生産から流通から消費、廃棄するところまで、いろんな要素があるんだけど、それぞれの要素に対して、もっとこんな風に変えられるんじゃないかってさまざまなリサーチをされてるんだけど、そのひとつに食糧の格差問題っていうのがあったんです。食にお金を使えない人ほど、低価格のジャンクフードに依存して、肥満に陥るという悪循環をどう解決できるかっていう話なんだけど、これって、結構大きな社会問題じゃないですか。そこでは消費カロリーをポイントにするという仕組みを提案していて、これが面白いんです。

カイエ:興味深いですね。

ワカ:確かソチだったと思うんだけど、地下鉄の駅に、トレーニングマシーンを設置しておいて、それを使ってカロリー消費すると、電車にタダで乗れるみたいな取り組みをしてたんです。要するに、消費カロリーをそのまま貨幣価値に転換しちゃうということなんだけど。

カイエ:面白い!

ワカ:いままでは、単なる消費(浪費)でしかなかったものを価値に変える。これ、面白いと思うんですよ。っていうのも、今まで生産と消費っていうのは基本的に対立的な図式のなかにあるものと考えられていたけれど、ここでは、それが表裏一体のものになっている。この発想、「なるほどね」と思ってちょっと感銘を受けたんだけど、それじゃ、たとえば、ほかの分野のどこで、これを応用できるかって考えるのは、ちょっと面白い議題かなって。

カイエ:突き詰めていくと、結局、デシジョンメーカーにゆだねられてくるってことですよね?その人たち自体が、クリエイティブじゃないと難しくないですか?

ワカ:そこが難しいですよね。どうなるんだろう。

カイエ:そこに面白味はありますけどね。

ワカ:最近、けっこうお気に入りの言葉がありましてね。いままでは、例えば個々の文化っていうものがあって、それを産業化していくことで、映画産業とか、アニメ産業とかが生まれ、大きくなってきたわけじゃない。つまり「文化の産業化」ね。でも、これからは、そうじゃなくて「産業を文化化」しなきゃいけないって、ある人が言ってたんですよ。これ、いい言葉だと思うんです。例えば、エネルギー業界みたいなところでも、エネルギーの生産と消費とを、さっきのカロリーのように表裏一体のものにしていくようなことをしていくことが、ますます課題になっていくわけですよね。そこで必要なのって、ここでいう「文化化」なんだと思うんですよ。そうやって「文化化」を行っていく上で、アートやデザインっていうものが、すごく重要な意味を持ってくることは間違いないはずなんです。別にその知識が必要ということじゃないんですが、その思考回路や、プロセスへの理解だったりとか、そういうものを身につけることは、これからの意思決定権者にはどうしても必要になってくるんだろうと思います。じゃあそれをどう身につけるんだ?ってなると、それはそれで難しいんだけど。

カイエ:それ、よくわかります。日本の偏差値教育の弊害ってそういう時に難しさを感じちゃいます…。

ワカ:例えば、なにかをつくるときの一番合理的なやり方って、設計図を詳細につくって、その通りにつくればいい、ってことだと思うんですが、それっとプラモデルしかつくれないってことじゃないですか。アートとかデザインとかって、そういうふうには作業できないものだと思うんです。物事を単純に積み上げていく、というものではなくて、全体を見つつ、かつディテールを見つつ。細部に全体が宿り、全体に細部が宿っている、というふたつの真理を同時に見つつ、マクロとミクロの視点を自分のなかに同居させるような離れ業が必要になってくる。こうした視点が、これからは、おそらく、あらゆるビジネスの現場でも必要になってくる気がするんです。って、まあ、いまも昔も、最も優秀な経営者は、そういうクリエイティブな感覚はすべからく持っているんだと思いますけど。

カイエ:日本人って、過去も含め、全体最適化しようとするから、全然未来志向じゃないところがありますよね。最近、僕、バルミューダのパネルヒーターを買ったんですけど、よくできてるなあって感心してて。

ワカ:バルミューダの社長は、もともとロックミュージシャンなんですよね。最初のファンヒーターというか、扇風機を作ったときも、たまたまテレビ見てて思いついたらしいです。

カイエ:ユーザーインターフェイスもよくできてる。インフォメーションの与えられ方がアップル的なんですけど、そこに日本人のおもてなし感みたいなもの感じさせるんですよね。無印良品にOSが搭載された感じというか。あの発想、面白い。

ワカ:バルミューダについて面白い話あるんです。彼らのことは、WIREDの日本版でもけっこう紹介していて、社の方とも親しいんです。あるとき彼らが、“グリーンファン”っていう扇風機を英国のWIRED編集部に使ってもらいたいと言うので、送ってあげたんです。で、UK版の編集部に「どうだった?」って聞いたら『普通の扇風機と何が違うんだ?』とか、『エネルギー消費が少ない以外は、普通の扇風機じゃないか』みたいなこと言われたんですよ。バルミューダの扇風機のファンの構造って、風が一回真ん中に集まって割れて、それが面になって送られてくるから、自然の風に近いものなんです。日本人だったら、その風が肌にあたった感じが、従来の扇風機とは全然違うってことはすぐにわかるんだと思うんです。なので、「いや、風のクオリティが違うはずだ」って、言ってみたんですけど(笑)、向こうはなんのことやらなんですね。伝わらないわけです。

カイエ:それは難しいでしょうね。極めて日本的な感覚ですから。

ワカ:彼らは“イノベイティブ”っていうと、羽ナシの扇風機を想定するわけですよ。「破壊的」っていう意味で、たしかにダイソンはそうなんです。でも、彼らは、風が圧倒的に気持ちいい、ということをイノベーションだというふうには、なかなか理解してくれない。そのとき、「なるほど、これは、結構大変だな」と思いましたね。海外でバルミューダを売ろうと思ったら、風に対する感受性から啓蒙しなきゃいけないのかって。逆に言うと、風の心地よさ、とか言ってるぼくらは、一体どう見られてるんだろうってのも気になります(笑)。

カイエ:さっきの議論(※前編参照)とちょっと近いかもしれないですね。イノベーションって、そのぐらいのインパクトの言葉ですよね。

ワカ:でも、バルミューダのイノベーションがダイソンに劣っているかというと、そんなことはないんですよ。そのファンはものすごい画期的なんですよ。扇風機ってのは、一般家庭でもよく使われている家電のひとつで、ぼわーっていう風にずっと当たっていると、気持ち悪くなってくるじゃないですか。でも、バルミューダの風は、そうは感じない。長年日本人は扇風機をつくってきたけれども、誰もそこに目をつけなかった。ぼくは、それは、扇風機の本質に迫った、いいイノベーションだと思うんですけどね。

カイエ:この前まで、どこの加湿器を買おうかと迷っていて、いろいろ調べてって、見に行ったんですけど、まず最初に選から外したのが意外にもダイソンで。というのも、ダイソンの加湿器って、ダイソンが作っているファンがない扇風機と同じフォルムだったんです。別にこの形状じゃなくていいんじゃない?無理していない?って(笑)。バルミューダのほうが、空間に置かれたときの佇まいを考えて作っている。この感覚や繊細さは、日本人っぽい。未来はこっちじゃないかなあと思いました。

ワカ:いや、断然そうだと思いますよ。ただ、そうした、ひそやかなイノベーションが、特に海外でどういうふうに認知されて、広がっていくことができるのかっていうのは、意外と超えなきゃいけないハードルが多いなっていう気はします。でも、そこは、やっぱり、「風のクオリティ、キミら分からないの?ダサくない?」ってところを、もうちょっとうまく日本から発信すればいいように思うんですよね。ここにおいて、日本人は、おそらく、すごいハイエンド、かつハイコンテキストなことをやっていて、それは、ぼくらのお家芸でもあるわけじゃないですか。だから、そこの売り出し方っていうのは、うまくやらないとなんだろうなっていう気はしますね。

カイエ:もしかしたら、それこそが日本の“売り”になるのかもしれないですね。

ワカ:そうかもしれない。それは単なるローカリズムだって言われれば、そうかもしれない、と思うところもあるけど。

カイエ:僕が感じたのは、いわゆる一昔前の強いデザインのデザイン家電のようなものに囲まれている家って、単に醜悪だと思っているのでバルミューダのような思想は世界に通用すると思いますけどね。OSベースであれば、最終的にネットワーク化されていくことや、機能に価値をおくようになるから、デザインも個としての存在感はなくなって、機能のある壁のようなものになっていくはずだし。存在感が限りなくゼロに近いデザインの加湿器があって、ヒーターがあって、そういったプロダクトの全てが連動してくると、iPhoneで湿度はこっちからこのぐらい出して、ヒーターはこのぐらいの温度って勝手に考えてくれるようになるだろうし。そうなると風や湿度の「質」に目がいくようになるかもしれない。家電の本質を考え直すのはいいなあ。それは、すごくいい未来だなあって。

ワカ:そうですよね。最近よく話題に出る「IoT」っていう話も、結局は、ユーザビリティというか、それを家に置いておきたいかどうか、という気持ちとセットでしか走らないものだと思うから、本当に、その「質」は重要になってくるんだと思うんですよね。だから、たぶんそっちを一生懸命考えたほうが未来的なんだと思う。ロボットの話で言うなら、“ペッパー”とかって、あんなもの家にいらないでしょ?邪魔でしょ。でも、“ベイマックス”ってぶよぶよじゃないですか。ぶよぶよのロボットって、ちょっと楽しいかもしんないし、家に置いておけるかなって気にちょっとなるじゃないですか。

カイエ:確かに。

ワカ:去年MITメディアラボの人が発表したJIBOっていう卓上型のロボットがあるんですよ。家帰ったら電気つけてくれたり、お風呂わかしてくれたりっていう他愛もないものなんですけど、そのインターフェースがすごく可愛いんですよ。黒い丸いモニターがあって、その真ん中に白い球体みたいなのが表示されていて、それがふよふよと動くだけなの。でも、それだけで十分に親和性っていうか、こっちが共感できるっ装置にはなっている。ロボットの話でいうと、C-3POとR2-D2ってあって、みんな絶対R2-D2のほうが好きでしょ? 

カイエ:たしかにC-3PO大好きって人は、相当変わってますね(笑)。

ワカ:やっぱりR2-D2がかわいいんですよ。あんまり表情がないんだけど、多少の声と動くだけで、ぼくらはそれを十分かわいいって思えることは、すごく大事なことだと思うんですよ。リアルに人型とかって、家の中に置きたくないっていうかさ。ルンバと結婚したいって言うひとも結構いるでしょ?あれも同じで、ルンバって全然人っぽくない。

カイエ:でも、ルンバに愛情を持っちゃうんですよね?僕の周りにも多いかもしれない。

ワカ:そうそう。共感できるっていうふうな。そういう共感するとか、人がそこの気持ちにタッチできるみたいなことの設計っていうのは、ほんとに重要なんだろうと思いますね。

カイエ:さきほどの「風が気持ちよくない」にも通じるものがあるんですかね。

カイエ:最近、なんか音楽聴いてます?ライブ行ったりしてます?

ワカ:この前、フライング・ロータスは、ちらっと行きましたけど。

カイエ:どっち行きました?ライブ行きました?

ワカ:いや、アフターパーティー。あっ、クイーンかけてるなと思って。

カイエ:そう。クイーンかけてましたね。僕、両方行ったんです。

ワカ:あ、ほんと?どうだった? 

カイエ:ライブの仕掛けに関していえば、もっとほかにいい人いるのかなってこと? 

ワカ:(笑)

カイエ:冗談ですよ。ただ、ああいうことが起こってるっていうのは、ちゃんとみんな知っといたほうがいいよっていうのはありますね。

ワカ:インタラクティブな。

カイエ:エンターテインメントとしての新しいの提示ですね。あの粗野な感じは、すごくLAビートっぽいなと。それにフライング・ロータスって移動のとき、折り畳みで、あのセットをかなりコンパクトにして移動するみたいなんですね。あのモバイル感と、音の支配感のギャップはいいなって。割り切りかたに、すごくアメリカ的な合理性があるというか。

ワカ:なるほどね。

カイエ:フライング・ロータスは、音楽的に勿論好きなんですけど、彼の思想や実践がいいなあと思っていて。この領域まで幅を持たせちゃっていいでしょみたいな感じとか。ここまで盛り込んじゃっていいでしょみたいな、本能的な遊びや実験を繰り返しながらも、オーディエンスのこういうビートが気持ちいい!っていう刷り込みそのものや、ビートそのものの概念を覆すような強い牽引力がある。センスや存在感も含め、ちょっと怪物くん的なんですよね。これまで伝説って言われてきたアーティストって、もし同時代に生きていたらこういう感じだったんだろうなあっていうイメージが湧きます。

テクノロジーの進化が際立たせる人間の複雑性

カイエ:iWatchとか、ウェアラブルコンピュターについても最近よく話しますよね。ウェアラブルが変える世界って、どう思われています?

ワカ:いや、正直全然分からないから、あんまり興味ないことにしてる(笑)。でもひとつ、ウェアラブルで面白いかなと思ってるのは、自分をよりよく知るための機能かな。それには価値があるかなと思ってる。

カイエ:そうですね。まったく同感です。

ワカ:メガネのセンサーで自分の姿勢がわかったりとかするヤツを、体験してみたんですけど、あれはよかったですね。意外に姿勢をちゃんと保つって難しいなって改めて思って、こういうものは、きっと役に立つだろうし、自分が知らない自分っていうものが可視化されるのはちゃんと意味があるし、需要もあるのかなという気がする。

カイエ:つまり、iPhoneなどの代替ではない。

ワカ:そうだね。代替じゃないですね。例えば、センサーが自分の血糖値を測っていて、下がってきたら、「チョコレート食べなさい」とか言ってくれたりするのって、いいと思うんですよ。というのも、ぼく、わりと意味なく機嫌悪くなったりするんですよ(笑)。でも、自分の機嫌が悪い理由って、自分でもよく分かってないんです。でも、おそらく、なんかの理由があるはずなんです。ぼくは最近、「これは気圧のせいだ」って思うことにしてるんですが、たいていの場合は、お腹がすいてるだけなんですよね(笑)。つまり、ぼくがウェアラブルセンサーやらに期待してるのは、そういうことなんです。身体データを、そこそこ精緻に取得して、それを例えば気圧の状況なんかと参照することで不機嫌な理由を突き止められるんじゃないかってこと。突き止めたら回避できるわけですよね。それは、少なくとも周りの人間にはありがたいはずです(笑)。逆に言うと、実は僕たちって自分たちのこと、本当に何も知らないまま、生きてきたんだなっていうことでもあるわけです。それがウェアラブルによって、理解するようになるのは面白いことだなって思う。

カイエ:きっとそれによって自分のメンタリティ変わりますよね。きょう僕、機嫌良くないなぁ〜みたいな。

ワカ:そうそう。気圧のせいだったらしょうがない、ってなることもあるだろうし。それに対して対処もできるかもしれない。それこそ、MITメディアラボが会社内でライフログをつけるみたいな実験をやっていて。

カイエ:楽しそうですね。

ワカ:人がどれだけ社内で話したかとかっていうのが記録されていくんですが、それを分析してみたら面白いことがわかった。すごく生産性の高い社員が、ある数人の人をハブのようにしてつながっていることがわかったんですが、面白いのは、そのハブになっている人たちっていうのが、必ずしも生産性が高いというわけではない、ということなんです。ぼくの推理だと、要するに、ハブになっている人たちって、いつ行っても喫煙所でとぐろを巻いてるようなヤツなんじゃないかと思うわけです(笑)。その人自体は生産性は低いんだけど、生産性の高い人たちは、必ずその数名と会話をしている。つまりは、人が生産性をあげるための触媒のように機能しているってことなんですね。これまでの会社だったら、この人は、絶対評価されないんです。「あいつタバコばっか吸ってて、成績も悪い」って。でも、その実験の結果を重視するなら、そいつが辞めちゃうと、会社全体の生産性が下がるんです。つまり、何が言いたいかっていうと、これまでの査定とか、物事の価値基準って、ものすごく雑で単純化されて、しかも画一的なパラメーターでしか測れなかったってことなんです。要は、時間ですよ。勤務時間と勤続年数。でも、新しいセンサーによって違う価値が可視化されることで、違う物差しが生まれてくる。これは、画期的に面白いことだと思う。

カイエ:テクノロジーが進化すればするほど、人間の複雑性が際立ってくるってことですね。

ワカ:ですです。そゆことです。

カイエ:そうですね。最近起こっていることって、全部その話と同じような気がしているんですね。たぶんワカさんがさっきからおっしゃっている、「いや、未来なんか見えない」といった話って、結局テクノロジーで解決できる分野って、このぐらいなんじゃないのみたいことはあるかもしれないですね。

ワカ:とにかく、どんどん複雑さが見えてくるっていう話だと思うんです。だから、面白いんですよ。

about THEM

Editor
若林 恵

1971年生まれ。編集者。月刊太陽の編集部を経て2000年に独立。さまざまなカルチャー誌で編集に携わるほか、音楽ジャーナリストとしても音楽誌への寄稿や音楽レーベルのコンサルティングなども手掛ける。2011年よりWIRED編集長に就任。

Creative Director
ムラカミ
カイエ

1974年生まれ。クリエティブディレクター。三宅デザイン事務所を経て、2003年 東京にファッションとビューティ分野に特化したブランディングエージェンシーSIMONE INC.を設立。国内外多数の企業のデジタル施策を軸としたブランディング、コンサルティング等を手掛ける。


FOLLOW US

pickup JOURNALS