POSSIBILITY OF COLLABORATION

未来に残る五感の相乗効果

イラスト:水江未来「JAM」(2009)
写真:山崎智世 取材・文:林理永
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未来に残る五感の相乗効果

水江未来 (アニメーション作家) × 林 周作 (郷土菓子研究社)

業種の異なる2人の興味深い対談が始まった。細胞をモチーフとした抽象アニメーションの制作を行う水江未来さんと、郷土菓子研究のためパリから上海までの自転車旅を続けながら、自らお菓子を制作販売する林周作さんだ。水江さんの大ファンである林さんのラブコールで実現した当対談は、手探りで進むうちに、どんどん2人の共通点が明らかとなっていった。2人が作り出す作品たちは、モノは違っても、どちらも繊細で美しく、触れる者の五感を刺激する。テーマは、「抽象アニメーションと郷土菓子、それぞれの未来」。分野を超えた“コラボレーション”の可能性も見えてきた。

(左)水江未来さん(右)林周作さん

「抽象アニメーションは、何万年後までも残る視覚的、聴覚的刺激。」(水江)

林周作(以下、林):今日は宜しくお願いします!僕が最初に水江さんを知ったのは、3年程前にフランスに住んでいた頃に、ネットで見つけたんです。アニメーションが元から好きだったので、検索してみることが多くて。それで、たまたま水江さんの作品『AND AND』を見て衝撃を受けて。それからずっと遠くから見ていたので…。

水江: Twitterで一度リプライしたこともありますよね。インドの標識の文字が僕の作品に似ているとかで(笑)

林:僕の“郷土菓子”もそうですけど、“抽象アニメーション”も、一般的な話で言えば、まだまだ馴染みが薄いですよね。残念ながら。

水江:そうなんですよね。マニアックなもの、「好きな人は好きだね」っていうものではなくて、メジャーなエンターテイメントの一つとして、抽象アニメーションのポジションを作りたいんですよ、僕は。だから、誰が見ても、アニメーションが動いていることの気持ち良さを感じられるようなものを作りたい。

林:見ていて気持ちいいですもんね。なんか、ゾワゾワっとします。子どもでもお年寄りでも外国人でも、観たときの感動は同じはずだから、抽象アニメーションこそ、幅広く楽しめると思います。

水江:僕は、もう見る人をこちら側から選択をしない、という風にしたいんです。どの国の人でも、どの世代でも楽しめるのか。更に、大昔の人が見ても、今の文明がどう変わっているか分からないような未来の人が見ても楽しめるのか。僕は、言語とかが通じるのって、もう今だけであって、何万年後に本当に超えていけるものは、視覚的、聴覚的な刺激だけだな、と思っていて。何かの映画みたいに、地球上に誰もいなくなって、最終的に宇宙人がヒューッと宇宙船に乗って来て、僕のアニメーションを見つけても、「あっ、面白れー!」って言うかどうか(笑)

林:それはすごいですね(笑)

水江:だから、よく皆「この作品は子どもから大人まで全員を対象にしています」とか言うけど、その全員の範囲はどこまでなんだって言いたいですよ(笑)僕は宇宙人のことまで考えてるから、って(笑)


MIRAI MIZUE × PASCALS【WONDER -Trailer-】

林:水江さんが以前Twitterで、「ストーリーのある分かりやすいアニメーションを作れば良いじゃんって言われるけど、それは作らない!」と書いていたのが印象的だったのですが、商業アニメーションに対してアンチ的な考えはあるんですか?

水江:そこに対して、アンチの気持ちは無いです。ただ、宮崎駿監督の『風立ちぬ』、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』とかは、別格ですよね。贅沢なんですよ、すごく。作られ方が。どっちが面白い、面白くないの話では無いんですけど、他のアニメーション映画を見ると、どうしても予算やスケジュールの制限を感じてしまうので。そういう現状もある中で、僕みたいなインディペンデントでやっている作家は、どういうものを作るか。もちろん、予算も全く無いところから作り始めますから、こっちは。じゃあ、どうするんだ、っていうところ。

林:なるほど。僕も完全にインディペンデントなので、仰っていることはすごくわかります。

水江:自分が抽象をやっているのも、そんなに特別なことではないですし、他の人がアニメーションを作るのと同じだと思うんです。たまたま自分の描き方が抽象画なだけであって、物語のあるアニメーションと比べて珍しいから、何か特殊な人間が特殊なやり方でやっているものだっていうイメージがあるんですけど、それを払拭したい、というか。ただ、抽象アニメーションにも展開はあるので。どちらかというと、音楽を考えることに近いですけど。

林:音楽と同時進行で作られるんですか?

水江:例えば、今、60分の長編を作ろうと思っていて。音楽は、映画音楽作曲家の渡邊崇さんにお願いをして、色々話し合いながら制作を始めたところなんです。60分間をどういう展開に持っていくか、という話をした時に、僕は映像の組み立て方の話をしていて、渡邊さんは音楽の組み立て方の話をして、違うジャンルのことを言っているんですけど、お互い理解できるんですよ。今までの僕のアニメーションは、ゆるやかに始まって後半加速してワーッとなって終わることが多かった。でも渡邊さんは、クラシック音楽のように、まずいきなりバーンとマックスのものを見せてから、少し落ち着いてやりたい、と仰っていて。僕も1回それをやってみたいな、と思っていたところで。」

林:楽しみですね。もちろん、今までの細胞アニメーションの感じですよね?

水江:そうです。でも、普通に作品として5分とかで見せていたものが、60分とかになった時にお客さんは耐えられるのか、とか、クリアしないといけないことがまだ沢山ありますけどね。でも誰もやっていないことなので、それに挑戦するというのが面白い。

林:でも、水江さんお一人で長編制作は、大変じゃないですか?

水江:そうなんですよ。ひとりでやるのであれば、3分のアニメーションに2ヶ月ちょっとはかかりますからね。

林:制作スタッフを増やさないんですか?

水江:今までも色塗りとかは任せることはあったんですけど、自分しか出来ないと思っていた細胞を描く作業も、もしかしたら訓練させれば出来るかもしれないな、と最近は思っています。抽象アニメーションをスタッフワークでやってる、なんて言ったら、多分反発もあるんですよ。「こういうのって、ひとりの人がやっていくもんじゃないの?!」みたいな。映画祭に行っても、よく「作画する前に瞑想の時間を持つんですか?」とか聞かれるんですよ。「そんな訳ないだろ」と思うんですけど、イメージ壊したくないから「うーん、ちょっと5分くらい」とか答えたりして(笑)

林:クオリティを保つことと、広げていくことって、そのバランスが難しいですよね。インディーズからメジャーなる時みたいな(笑)

水江:難しい。あるんですよね、自分の中で。僕はアナログで描いているので、線の幅の間隔とか、線の滑らかさとかは、他の人に任せると、やっぱり違う。でも、幸いと言えば良いのか、アニメーションは動くので、それなりに見えるんですけど。『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげるさん、『ゴルゴ13』のさいとう・たかをさんも分業していると聞きますが、本人かアシスタントかの違いは、一般の人は誰も気が付かないですよね。それをどこまで妥協出来るのか。やっぱり、自分ひとりでやっていくと、「やりたい」という思いに対しての実現していくスピードが、あまりにも遅くなってしまうので。

「世界各地の郷土菓子の存在を日本に伝える。僕は遣唐使みたいな役割で良いと思っています」(林)

林:僕の作っているお菓子は、日本ではまだ誰も作っていないんですね。メジャーなお菓子じゃなくて、その土地に根付いた郷土菓子を作っているので。僕は元々イタリア料理の料理人だったんですけど、そこからイタリア菓子に興味が出てきて、見よう見まねで作ってみて。友達には好評だったけど、それが果たして本当にその土地のものになっているのか、と疑問に思って、20歳の時に、まずは実際に3ヶ月間ヨーロッパを回ってみたんです。東はチェコ、ポーランド、モロッコ、スペイン、ポルトガルまで。それで、旅をしていたら、ネットにも出ていないような、すごく面白いお菓子に出会うことが出来て。これは郷土菓子ばかりピックアップしていったら面白いことになるな、と気付いて、いまそれをやっているんです。ショウウィンドウの綺麗な洋菓子ばかりがお菓子じゃないよ、って。

水江:すごい。しかも今は、パリから上海まで自転車で旅をしているんですよね?

林:そうですね。今はベトナムまで来たところで、一旦帰国していますが、3月にまた再開する予定です。今は日本で、僕が実際に出会った、トルコやボスニア・ヘルツェゴビナ、ウクライナのちょっと変わったお菓子の味を再現してイベントで発表しています。

水江:それは、全部ひとりで?

林:お菓子作りから、パッケージから、売り場まで、全部ひとりです。展示の時に手伝ってくださる方はいますが。でも、もうそれにも限界があるな、と思っていて。大してお金にもならないし、数も作れないし。人ひとりの出来る範囲に収めたら良いんでしょうけど、僕は貪欲なんで、どんどん色んな人に、もっと伝えたいと思うし、どうしたらもっと色んな人に一気に見てもらえるか、食べてもらえるか、を今考えているんです。

水江:同じですね。自分の好きなこの分野をもっともっと広げたいっていう。

林:お菓子のレシピも、同じ材料、同じグラムで作っても、絶対味変わるんですよ。作る人が変わったら。でも、僕は、遣唐使のような役割で良いかな、と思っているんです。中国大陸から初めて日本にお菓子を持ってきた遣唐使がいるからこそ、日本にお菓子文化が広がって、今に至る。そういう役割でも良いかな、と。自分の今作っているこのレシピがすべてじゃなくて。

水江:なるほど。

林:で、その味が誰かに伝わって、例えば、東京にトルコの郷土菓子を作るお店が5件できました、それは、僕がトルコから日本に伝えて広がりました、って言ったら、それはそれで面白いと思うんです。それぞれ味が違って当然で。

林さんの販売する、アゼルバイジャンの「シェチェルブラ」という郷土菓子。キャラクターは、友達のイラストレーターに描いてもらったもの。

水江:日本の郷土菓子はやらないんですか?

林:もちろん、最終的には、日本もやりたいです。どの国のどの街に行っても、「この街には何がある?」って聞いたら、もう「ここには、これがあるよ、あれがあるよ」って沢山教えてくれて。そんな体験を毎日のようにしている中で、遠くから日本を見ると、日本人は全然和菓子を尊重していないな、と思っているんです。このままいくと、和菓子屋はどんどん潰れていって、潰れてしまったらそこで終わり。まさに今がその端境で…。日本人に自分の土地の郷土菓子に目を向けて欲しいな、と。それが僕の中の未来。今は外国の郷土菓子を日本に紹介していますけど。

水江:和菓子と縁の深いお茶もそうですけど、日本の伝統的なものって、ほとんどどのジャンルも敷居が高いですよね。

林:そうなんですよね。普通に日本人がやってきたことなのに、今は、仕切りの向こう側にそんな世界があるな、くらいの感覚。それをまた日常に戻していかないといけないな、というのはあって。

水江:コンビニが異様に多いのも影響ありますよね。ヨーロッパは専門店文化だから、旬なものも分かるし、自分の土地の名産品も分かる。お菓子も、郷土的なものが沢山置いているけど、日本だと、お菓子と言えば、コンビニでジャンクなお菓子を買うのが主流で。

林:昔は、商店街の魚屋さんの魚の調理法が家庭の味であり、その地域の味になって伝えられてきたのが、今はもうスーパーで魚を買ってネットで調理法を調べる。昔の流れが完全になくなってるんですよね。でも、1回便利なものを知ってしまうと、もう戻らないですけどね。例えば、ネットで会話出来る魚屋さんとか、そういう時代になるのかな。

「最終的に“食べてもらう”ために、人にアプローチする手段としてのアニメーションを作っても面白い」(水江)

林:食に関して思うのは、美味しいものは世に溢れている、ということ。わざわざ新しいものを作り出さなくても。でも、僕がやっている郷土菓子って、ただ美味しいだけじゃないと思っているんです。そこには文化があって、歴史があって。ずっと作り続けて来たものなんですね。それを食べることによって“体験する”。高級なコース料理も、寿司屋のカウンターも、“体験する”ことを含めたことの価値。これからは、どんどん“体験する為に、食べていく”。そんな風な時代になりそうかな、と感じてます。

水江:その“体験”は、例えば、直接的に口に含んで味わうこと以外にもあり得ることですか?

林:そう思います。僕がやっているのは、ちょっと変わったお菓子で、なかなか日本人に直接体験してもらえないからこそ、そこにどうやったら興味を持ってもらえるか、っていうのは、常に考えています。自転車の旅の中でも、パリから出発して、スイス、ドイツ、クロアチア、セルビア…と、毎月国ごとにフリーペーパーを作って、日本にデータを送って刷ってもらって、お菓子屋さんやレストラン、ギャラリーに置いてもらっていたんです。それも、もっと色んな人に興味を持ってもらいたくて、全部ストーリー仕立てで、コメディチックに笑いもつけて、その中でお菓子を紹介していく。例えば、お菓子自体を擬人化したり、牛乳のカルシウムがキャラクターになっていたりとか。

水江:紙面から味を伝えていた訳ですね。

林:あと、この自転車旅に関しても、別に電車でもバスでも良かったんですけど。自転車で行って、その日に泊まるところを探しているっていう、ただそれだけで、色んな人に注目されるので。そこからお菓子を伝える手段になれば、と思って。もちろん、本当に細かい色んな場所に行きたい、とかお金が無い、とか、そんな理由もありましたけど(笑)」

水江:最終的に、そのお菓子を食べてもらうことに繋がれば良いですもんね。

林:そうなんです。その最終的な段階に持っていくのは、色んなやり方があるな、と思っていて。例えば、イラストだったり文章だったり、もしかしたらそれがお菓子を伝える為に、舞台になったり。お菓子をアニメーションで表現することもできると思っていて。どんな形でも良いから、その情報が最終的に伝わって食べてもらえるような風になったら良いな、って。

水江:僕、以前、知り合いに「味のするアニメーションを作って欲しい」と言われたことがあって。見ていて甘い味がしてくるような、スパイシーな味が伝わるアニメーションとか。その時は「難しいな」と返したんですけど、いま林さんと話をして、実際に林さんのお菓子を前にすると、なんかあり得るかもしれない、って思ってます。確かに、このお菓子の食感とか、味とか、使っている食材とか、そういうものをイメージしていくと、表現する方法はあるな。

林:例えば、レモンがかじられているような映像だけでも、すごく酸っぱそうな感じがするじゃないですか。だ液が出て来たり。ガリって散っていくと固そう、とか。それと同じように、アニメーションで表現出来たらすごいですよね。映像の力ってすごいですもん。爆発的に人に伝えられるな、と。食べてもらうより、見てもらう方がハードルが低い、というか。

林さんの著書「THE PASTRY COLLECTION 日本人が知らない世界の郷土菓子をめぐる旅」(KADOKAWA/エンタープレイン)

水江:そういう業種を超えたコラボって、すごく可能性ありますよね。僕も実際、1~2年程前までは、同じ業界の人としかほとんど繋がりが無かったのが、「WONDER」という新しい作品を作って、自分の作品を色んな映画館で上映して、ゲストで色んな人に来てもらったのがきっかけで、自然と色んなジャンルの近い世代の人達と繋がるようになって。最近それがすごく楽しいんですよね。

林:何かプロモーションビデオも制作されてましたよね?

水江:そう。「ピコ」っていう世界最小の単位があって、そのピコレベルまで見える顕微鏡があって、そのプロモーションムービーを作ったりしましたね。

林:郷土菓子と抽象アニメーションのコラボで、今ぱっと閃いたのが、例えば、自分のお店を持っていたとしたら、お菓子ごとに映像をつけて、その店のディスプレイに並べて、1つずつ動いていたとしたら、すごく面白いですよね!

水江:映像からお菓子を買う!すごい(笑) だって、映像があるって、大体こうお店単位でのプロモーションとかではありますけど、商品1つ1つに、って、今まで無いですよ。店内すごそうですよね(笑)

林: QRコードで接続して、映像が見られて、スクロールしたら情報が載っている、とかでも良いし…。

水江:そういう意味では、抽象アニメーションは、色んなところで、コラボレーションしやすいですよね。色んなものと解け合って、今までに無かった展開が出来るというか。そういうのは強みだと思います。僕も妄想力がすごいですが、お話を聞いていると、林さんも相当すごいですね…(笑)

林:僕がこの前やった展示も「もしも450年前の南蛮貿易がポルトガルじゃなくてオスマントルコだったら、日本に入ってきたトルコ菓子は今どうなっているか」というテーマでした(笑)

水江:すごい妄想(笑)ただ、残念なことに、この妄想というのは、死ぬまで続くんだろうなって。じゃあ、全部を観られないんだな、と思うと、残念で仕方ないですね…(笑)だから、せめて、なるべく今頭の中にあることは、とにかくどんどん形にしていかなきゃな、とは思いますけど。

林:そういう意味では、やるべきことはもっともっとありそうですね(笑)

about THEM

Animation Director
水江未来

1981年生まれ。MIRAI FILM代表、
アニメーション作家、イラストレーター、デザイナー。多摩美術大学大学院グラフィックデザイン学科でアニメーションを学ぶ。「細胞」や「幾何学図形」をモチーフにした抽象アニメーション作品を多数制作し、主に国際映画祭を舞台に活動をしている。

Patissier
林 周作

1988年、京都生まれ。2008年にエコール辻大阪フランス・イタリア料理課程を卒業。郷土菓子の魅力に取りつかれ、世界各国の郷土菓子を実際に食べ、味を伝える郷土菓子職人に。フランスの菓子屋で勤務後、2012年6月から自転車でユーラシア大陸を横断。各国を訪れてはその土地の郷土菓子を調査し、その数は200種以上。訪れた国は現在32カ国を数える。


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