THINK THE NEXT WAVE

コーヒーのネクストウェーブ
GORILLA COFFEE

写真:小林直人 取材・文:谷口暁子
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コーヒーのネクストウェーブ<br />GORILLA COFFEE

渋谷のタワーレコードからパルコに向かう坂道の途中。コーナーに位置するガラス張りの建物が、コントラストの強いグラフィカルなゴリラのポスターで一面覆われていたことを記憶している。ブルックリンで地元クリエイターたちやローカルコミュニティから絶大な支持を集めるGORILLA COFFEEが、満を持して日本に上陸したのだ。NYデイリー紙で「NYで飲める美味しいコーヒーBSET5」に選ばれた実績が証明するように、その力強い味わいは、品質へのこだわりとバリスタが持つ高水準の技術が生み出す特別な一杯。オープンに先駆け来日したオーナー・Carol McLaughlin氏に、GORILLA COFFEEのヒストリーと日本でもスタンダードになりつつあるサードウェーブのこれからについて伺った。

人と人を繋げるコーヒーの役割

——なぜ、GORILLA COFFEEという店名に?

Carol McLaughlin(以下、Carol)「コーヒーを直接的に連想させるネーミングは避けたかったの。単純なネーミングよりも、よっぽど面白いでしょ?それに“GORILLA”というワードが持つ強いイメージは、私たちが提供したい力強い味わいのコーヒーともマッチしたの。それを体現するように、お店を見て分かる通り、赤や黒などの強い色を使った内装も特徴的ね。デザイナーにとってもデザインしやすく、かつ遊びのできるネーミングにしたかったの。2階のカウチ席にあるハンドサインは、ブルックリンで使っているコースターのデザインなのだけど、オープン当初よりもバリエーションは増えているし、お店のデザイン自体もアップデートできる自由度の高い名前にしたかったの」

——GORILLA COFFEEの理念やこだわりは?

Carol「第一には、最高の一杯を提供すること。GORILLA COFFEEでは、ブラックコーヒーをオススメしているのだけど、驚かれるのが、その味わい。もちろん、お砂糖やミルクを入れたいお客様には強制しないけど、ブラックコーヒーを今まで飲めなかったお客様も、このコーヒーなら飲めるという声を毎日のように耳にするの。とても嬉しい光景ね。それと、コーヒーにはコネクターの役割があるから、人との繋がりも大切にしているわ。それはお客様に限ったことではなく、お店で働くスタッフもね。デイリーに足を運ぶお客様であれば、お店のスタッフとも顔馴染みになって、朝の挨拶から始まり、夜は仕事帰りにちょっとした会話を交わす。そうやって、常連のお客様はもちろん、コーヒーを通じて新しいお客様とも繋がれることは、本当にエキサイティングなことね」

——GORILLA COFFEEは、家庭でも仕事場でもない第三の場所として提供したかったとのことですが。

Carol「そうね。でも、GORILLA COFFEEに限ったことではないと思うわ。一般的にコーヒーショップは第三の場所だと思うの。例えば、あなたのようなライターだったら、自宅のリビングルームで仕事することもできるけど、誰かと繋がりたい場所が必要だったら、しかもプレッシャーのない方法で。それって、気の利いた小さなコーヒーショップだと思うの。似た感性の人が自然と集まっていて、自分のスペースは確保されながらもコミュニティのひとつとして繋がりを感じられる場所。GORILLA COFFEEも、ブルックリンのお店は近隣の方々が集まるお店だから、渋谷店でも、人と人との繋がりが生まれるコミュニティの場所になってくれたらと思っているわ」

農園との信頼関係が生む最高の一杯

——年に2回、豆の買い付けに農園に自ら足を運んでいらっしゃるとのことですが、買い付けるとき大切にしていることは?

Carol「最高の一杯になるための豆であること。私の場合、それは品質だけではなくて人との繋がりもとても大切にしているの。例えば、“La Esperanza”は、エルサルバドルの素晴らしい農園から買っている豆で、5代続くこの農園では、最高の技術で最高の豆を育てているの。彼らの理念には、全てのプロダクトに責任をもって、手間ひまをかけた最高の品質を提供すること。それを貫いているから、自分たちのプロダクトに自信と誇りを持っているの。私の要求に対しても100%で答えてくれるし、彼らのコーヒー豆への信頼度は高いわ」

Carol「ブラジルの農園も同じね。“Relogio De Dali”は、農園を訪れたときファーマーの1人がダリの時計をコレクションしていたことをインスピレーションに、このネーミングにしたの。それって、農園との個人的な繋がりがあるからできること。ユニークさもあるし、何か親和性を感じながら一緒に仕事をできることが、本当の意味での繋がりだと思うの。それは、ビジネスという繋がりがなくなっても変わらないわ。あと、私が買い付けている農園の多くは、女性農家の支援や学校支援などの社会福祉プログラムに参加していることが多いわね。素晴らしいコーヒー豆であることはもちろんだけど、私にとっては、社会福祉に貢献していることも選ぶ理由のひとつになるの」

——社会貢献されている農園を支持することは、社会福祉の仕事をされていた前職と関係があるのですか?

Carol「というよりも、そうすることが私にとってはナチュラルなことなの。仕事って、毎日がエモーショナルな出来事の連続。4ドルという金額は、コーヒー以外に費やすことだってできるのに、毎日コーヒーを買いに来てくれるお客様がいる。それってすごいことでしょ?私は、そうやって、いつも人に心を動かされているの。農園も同じ。いいファーマーとの出逢いは私のモチベーションでもあるわ。なぜなら、私は十分にその人たちのことを知っているし、長年をかけて築いた信頼関係があるから家族みたいな存在なのよ。オーガニックで素晴らしい品質の豆が収穫できた翌年が、不作の年であったとしても会いに行く。それは今後、彼らが素晴らしいクオリティのプロダクトを提供してくれると信じられるから。そうやって、信頼関係を築いていったの」

クリエイティブなモチベーションは“人”

——9.11の後、クリエイティブなスモールビジネスが始まる動きがあったと伺いましたが、サードウェーブとの関連はあると思いますか?

Carol「それはないわね。サードウェーブは、人々がコーヒーに対して、これまでよりもお金をかけるようになったという現象だと思うの。品質にこだわって、コーヒー自体の味わいをもっと楽しむということね。これは私の意見だけど、9.11の後は、本当に多くの人が仕事を失ったの。そのとき人々は、今自分のしていることに立ち返って、行動ひとつがもたらす影響を意識し始めて、人生の意義を探し始めたの。それはアメリカに限ったことではなく、突然の出来事に遭遇した時、人は自分のルーツに戻って、本当に大切なものは何かを探し始めるわ。そうして、家族との繋がりや本当にやりがいのあることを探したとき、その全てのモチベーションは“人”だったと思うの。人生はとても短い。その人生を楽しむためには、クリエイティブであることが必要だったのね。それが、そうしたムーブメントに繋がったのだと思うわ」

——GORILLA COFFEEがオープンした2002年当時は、サードウェーブの黎明期だったと思うのですが、意識されたことはありましたか?

Carol「サードウェーブと呼ばれているコーヒーショップの全ては、結果としてジャンル分けされただけだと思うの。GORILLA COFFEEのオープン当初も、まだまだ浸透していなかったし、私たちも意識していたわけではないわ。単に多くのコーヒーショップが、より美味しいコーヒーを提供したいという想いだけ。器具も良いもの選び、一杯のコーヒーに最善を尽くすこと。そうしたアイディアが、その当時オープンした多くのコーヒーショップの共通の想いだったのよ。そこからコーヒーの水準はどんどん上がっていったわ。器具も変わればトレーニング方法も、サービス方法も改善されていく。小さなことも含めれば、常に変化を続けているわ。ただ、最高の一杯を淹れること、人々を笑顔にすること。それは変わらない。コーヒーそのものだけでなく、空間や環境も含めて、喜んでいただける居心地の良い場所を提供できることが一番ね」

多様性に応えるネクストウェーブ

——多様化する社会の流れのひとつとしてサードウェーブは起こったと思うのですが、この次に求められるものは何だと思いますか?

Carol「サードウェーブは、さっきも話したように、人々がコーヒーにもう少しお金をかけられるようになったということ。特に若い世代が、品質にお金をかけるという動きね。20年前だったら、脇目も振らず仕事に没頭していたけど、今の世代は、顔を上げて周りを見渡し、お互いに影響を与え合いながら自分への投資も忘れない。そうした若い世代を見ていると、私個人の意見としては、消費者はもっと豊富な知識を身につけて、もっと積極的に参加できるスタイルを望むようになると思うわ。コーヒーだったら、お客様自らがカッピングやテイスティングをするスタイルかしら。食品も同じね。その食材がどこから来たのか、誰が作ったのか。そういった、もっとインタラクティブな関係性が築ける場所が求められると思うわ。シングルオリジンのエスプレッソが、毎日同じ味かといったら、バリスタが一杯一杯淹れるのだから少しずつ違ってくる。でも、その味わいを楽しめるのがいいじゃない?いつものお店なのに、常に新しいものが試せるのはエキサイティングでしょ?」

——それは、さらなる多様化の時代を迎えることになると予想されますが、Carol自身は、多くの選択肢のなかから何かを選ぶときに基準にしていることはありますか?

Carol「選択肢が多いのは良いことだと考えられているわね。ただ、選択肢が多過ぎることも事実で、過剰で行き過ぎていることは必ずしも良いとは限らない。だから、選択肢を提供する立場のときに大切にしていることは、ひとりひとりにフィットする最適な環境を可能な限り用意することね。そのためには、その人をパーソナルに知っていなければいけない。だから人との繋がりって大切なのよ。そして、全ての人は違うということを理解しておくこと。何かを決めるということは、常にストレスが伴うもの。特に都市での生活は、選択肢が多いことが時にとても疲れさせるから、表面的に物事を判断しないで、そのものの背景を重要視して、自分が心地良いと感じる場所や人と一緒にいることね」

Carol「GORILLA COFFEEでも、ドリンクひとつとってみても、コーヒーもあればシェイクもあるしレモネードもある。それくらい、あらゆるものに選択肢が用意されているなかで、あなたと一緒にいる、あなたの商品を選ぶ、ということには必ず理由があるわ。それは、そのお店で心地良いコミュニケーションがとれるからという理由かもしれないし、それは、その個人をパーソナルに理解してくれているという安心感や信頼に繋がっていると思うの。結局は、人と人との繋がりが一番大切なのよね」

about SHOP

GORILLA COFFEE渋谷店
東京都渋谷区神南1-20-17 1-2F
03-5784-2747
月〜金 7:30〜22:00 / 土日祝 10:00〜22:00
不定休


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