A BETTER CHOICE

食べるとき、考えること

写真:神藤 剛 取材・文:谷口暁子
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食べるとき、考えること

早坂香須子
(メイクアップアーティスト&アロマセラピーインストラクター)

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ティナ 美波 ディングラー
(FOOD&COMPANY コミュニティー&マーケティング ディレクター)

習慣にさえもトレンドの波が押し寄せる昨今。食材ひとつとっても多くの選択肢が用意されていることは豊かさの象徴であると同時に、選び取ることの責任が伴うことも事実だ。そして、それらは今後さらに加速することが予想される。“食”という共通項を軸に、インナービューティーに重点をおいたメイクアップを提唱するメイクアップアーティスト早坂香須子さんと、学芸大学にある自然食品を中心に扱うグローサリーストア「FOOD&COMPANY」で立ち上げメンバーとして、コミュニティーディレクターを務めるティナ 美波 ディングラーさんお2人とともに、未来の食卓について考える。

選択肢を豊かにするマインドシフト

ティナ 美波 ディングラー(以下、ティナ)「FOOD&COMPANYの立ち上げは6人でスタートしたDIYのようなスモールビジネスです。でも、オーナーご夫婦のキラキラしたアイディアがあったからこそ、チームワークとして色々な方に協力していただいて、立ち上げの頃には大きな家族のようでしたね」

早坂香須子(以下、早坂)「コミュニティーってすごく大事ですよね。住んでいる場所という意味だけでなく、離れて暮らしていても、お互いの方向性を合わせて一緒に活動すること。私は去年の7月に、サンディエゴからLA、サンフランシスコ、ポートランドと回ってオーガニックな暮らしをしている方を中心にお話を聞くという旅をしてきましたが、カリフォルニアでは、オーガニックであることを突き詰めると地産地消になる。何マイル以内の食材を使って調理していただけば地元に還元されていくので、地場産業の活性化にも繋がる。そうした暮らしでの考え方そのものがオーガニックなんですよね。日本でも、少しずつそうした流れが見えてきているけど、まだまだ少数派」

ティナ「私は生まれ育ったのがLAなので、アメリカの手法は知っていますが日本のやり方はゼロからのスタート。日本でのコミュニティー形成の方法や伝え方は、スタッフそれぞれが様々なチャレンジをしてきましたね」

早坂「自然栽培のフレッシュなお野菜が揃っているのもいいですよね。自分で作ることはできないから、そうした理念のもと作られた食材を買うことで貢献できますからね。近所にあって安価で、というところになりがちだけど、オーガニックを買うことは選挙と同じだと思っています。買うことで、オーガニックの価値観に一票を投じて応援する。ただ、まだまだお店の絶対数は少ないですけどね」

ティナ「そこが一番の課題でもあると思います。食はひとつのツールであって、一日三食のなかで自分が買って食べるものへの意識が変われば、もしかしたら洋服の選び方も変わるかもしれない。“オーガニックは高い”と認識されているし、実際にコンビニと比べれば高いのはもちろんですが、それは、それぞれのお金の使い方や豊かさへの価値観だと思うんです。コンビニのおにぎりを毎日食べている社会人は、それを買うしかチョイスがないと思い込んでいるけれど、本当は、それ以外のオプションも2〜3個あって選択肢があるというマインドシフトが必要なんです。そうすれば、FOOD&COMPANYのようなお店への需要も増え、自分とモノとの付き合い方も変わってくると思います。そうすれば、社会全体も変わっていくというのがコンセプトでもあって、社会構造そのもの、人とモノとの関係性を見つめ直したいんです。『きっかけを作る、グローサリーストア』は、そういう想いが込められているんです」

知る努力と責任

早坂「以前、逗子に住んでいたときの暮らしは、ティナさんが言う豊かさを実践しているコミュニティーがありました。例えば、海が近い環境で暮らしているから、自然と排水のことへの配慮が個人レベルでできているんです。目の前にある海を、子供や孫、もっと先の世代まで遺したい、という意識が当たり前にある方たちのなかで生活ができたのは、すごく幸運でしたね」

ティナ「変な言い方ですけど、今“食”が注目されているので、それがファッションで終わらずに、長く、ずっと続くといいなって。ファッションが入り口になって興味を持つのは今の世代に合っているから、FOOD&COMPANYも店舗デザインだけ見て、輸入食品のストアかな?と入ってみたら、醤油とかみりんを扱っている(笑)。きっかけは何であれ、興味を持ってもらえることは大切です」

早坂「そう。知ることは大事ですよね。身体のことを意識して、選択によってもたらす変化を知識として持っていれば敏感になれる。やるかやらないかも選択ですからね。私は食材を買うとき、必ずラベルは見ますね。そこで自分の知らない原材料が入っていたら買わない」

ティナ「FOOD&COMPANYでも、できるだけ表示はしていますが、分からなかったらスタッフがお答えできるように、責任をもって全ての食材を仕入れています。お店にはバイヤーもいますし、メーカーにも直接問い合わせて最後までフォローしますね。最終的に口にするのもお金を出すのもお客様なので、分からないことがあれば気軽に聞いて欲しい。そうしたスタイルのお店が、将来的に増えたらいいなって」

オーガニックであるより、健康であること

早坂「ティナさんがオーガニックに興味を持ったきっかけは?」

ティナ「私が生まれ育ったLAだと、オーガニックは比較的身近にあったもの。例えば『Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)』。自然食品店の先駆けのようなお店ですが、実際には一般的な20代や30代が日常的には手が届かない、少し背伸びしたイメージ。私が実際によく行くストアは『Trader Joe’s(トレーダー・ジョーズ)』。ここは、オーガニックとオーガニックでない青果両方を扱っています。どちらも美味しいですが、自分は意識的にどちらを選ぶか背景をきちんと説明しているお店です」

早坂「選択肢があるということですよね。アメリカだとファーマーズマーケットも充実していて、生産者の顔を見て会話のなかでお買い物ができるのはいいですよね」

ティナ「そうですね。私は、オーガニックというだけでなく、ファーマーズマーケットという意識の方が高いかな。マーケットでコミュニケーションがとれることも楽しい!洋服も同じ価値観で全て揃えたいと変え始めていますが、前の価値観の自分もまだ残っているので、少しずつ断捨離している感じ(笑)」

早坂「毎日オーガニックを日本で実践するのは難しいですし、そこを自分で縛ってしまうと苦しくなる。FOOD&COMPANYは、それぞれの個性が尊重される6名がバランス良くやっているのがいいなと思います。ヴィーガンもあればマクロビもあり、無農薬や減農薬、できるだけ自然、というような選択肢が豊かなのはいいですよね。当たり前のことのようで、意外と少ないですから」

ティナ「そうですね。私たちはオーガニックだから良いとしているのではなく、様々な食材を扱うなかでチョイスできることを一番大事にしています。私は、社会人2年目くらいに、日中は音楽の仕事をしながら夜はショップで働き、30分しかない休憩はファーストフードで済ませ、睡眠時間もないような生活をしていたら、素直に身体が壊れてきて(笑)。そのときに、薬に頼るのではなく、きちんとした食生活、特に野菜中心のスタイルに変えることで肌の調子も整ってきて食の大切さを実感しました」

早坂「身体って本当に素直。そしてお野菜のパワーはすごいですよね!」

ティナ「そう!ボストンの大学に通っていたときは、食堂でサーブされていたフムスなどのヴィーガン料理が純粋に美味しいと思っていたので、どちらかというと、味や健康のために始めました。それから、マクロビにベジタリアンと自分の身体に合う食習慣を試すうちに、今は、お魚は食べながら、乳製品や小麦をあまり摂らないスタイルを続けています。オーガニックというよりは、健康的な食習慣であることが一番の軸ですね。FOOD&COMPANYのスタッフも全員それぞれの軸を持っているので、お客様とも食を通して楽しみながらコミュニケーションできるんです」

ローカルコミュニティーの育成

早坂「フードのセレクションだけでなく、商品の陳列も見やすいし、このコミュニティーテーブルもコミュニケーションが生まれる空間として一役買っていますよね」

ティナ「そうですね。FOOD&COMPANYのお客様は、比較的滞在時間が長いです。ストローラー置き場もあるしコミュニティーテーブルもある。あまり日本にはないスタイルなので、カフェですか?と聞かれることも多いですが、ただ、ゆっくり過ごしていただく場所です。このテーブルひとつで、バランスが良くなるんです。お店でヨーグルトやアイスを買って、お子さんと一緒に座って召し上がっていただいたり、奥さんがお買い物している間、旦那さんはここで本や雑誌を読んで寛いでいただいたり。日常のお買い物やお料理がタスクだと感じている方も少なくないのですが、自分のため、家族のための栄養って、本当はすごくパワーがあって楽しいこと。ですから、お店に来てからお家に帰るまでのワクワク感を日常的に感じていただけたらいいな、と」

ゆったりしたスペースが確保された店内。

コミュニティーテーブルにあるお水はハーブとピールで香りづけ。

早坂「それはみんながハッピーですよね!特別なことではなく、日常のなかの身近なことをもっと豊かにするコンセプトは素晴らしいです」

ティナ「コンセプトを体現するひとつとして、例えばボードのチョークアートも近所の方にお願いしていますし、『F.L.O.S.S.』のポスターも大学時代の友人のデザイン。塗り絵もオリジナルです」

早坂「え!塗り絵もオリジナルなの?子供のうちからセンスも磨かれますね」

ティナ「お子様連れのお客様のなかでは、お菓子を食べていた食習慣からフレッシュフルーツにシフトされたかもしれないと思うと、お店の成長とともに育っていく子供たちの5年後、10年後を楽しみにするのが私たちのモチベーションにもなっています」

早坂「食に意識を持っていると、地に足がついている方が多い気がします。コンセプトがしっかりしているお店で買い物をしたり、自分できちんと選んだ食事をしたりしていると、自然と人柄にも表れてきますよね。自分の哲学があるので人と比べることをしない。そうした暮らし方の入り口になるなら、エコバッグが可愛いから、とかファッションから入ってもいいなって」

ティナ「そうなんです!FOOD&COMPANYは、学芸大学というロケーションも手伝って、年配の方から若い世代まで、幅広くお越しいただいています。それは面白い風景ですし、他人だったお客さん同士が繋がると更にテンションが上がります(笑)。月に3〜4回開催しているワークショップは、そうした繋がりの場にもなればと、食にまつわるものから暮らしのなかで役立つノウハウまで様々です。さらに少人数に限定することで、都会にいながら大人になってからも大事な繋がりが生まれるきっかけづくりになれたらな、と。全てのお店が求めているかは分からないですが、私個人としては、ソフトなバリューで都会のなかで村のような仕組みが作りたいんです」

ホットワインのポップアップスタンド。

深沢にある本屋「Snow Shoveling」のポップアップストア。

シェアリングが導く最大公約数

早坂「それぞれが持つ技術や知識をシェアしながら人と繋がっていくのは、村の始まりですよね。私は、看護師というバックグランドがありながらメイクの世界に入って、今は、看護師時代の経験も生かしながら好きなことに集中できています。働き方も、今は幅広い選択肢がありますからね」

ティナ「そうですね。アメリカだとリーマンショックがあったり、日本でも地震があったり、揺るぎないと信じていたものが大きく揺さぶられる出来事があったからこそ、働き方や暮らし方、人との付き合い方の大切さを考え直す時なんだと思います。そうした想いのもとに集まっただけのメンバーなので、実は全員フード初心者なんです」

早坂「みんなやったことない人たちなの?えー!面白い!想いだけで集まってカタチになって、素晴らしいですね!」

ティナ「今年、私はFOOD&COMPANYを少し離れて、また違うカタチで食のトレーサビリティを日常のなかで触れられるようなコミュニティーベースを代々木上原で立ち上げます」

早坂「代々木上原!じゃあ、まだ引っ越さないでおこうかな!(笑)」

ティナ「楽しみにしていてください(笑)。新しいプロジェクトでも、FOOD&COMPANYと同じようにコミュニティーディレクターとして参加します。代々木上原にお住まいのローカルコミュニティーと食を通じ、自然な繋がりが生まれるようなフレームワークとして、ちょっとしたガイド役になれればと!」

早坂「いいですね。代々木上原はこだわりのある小ロットのお店がたくさんありますからね。駅前も大きくなったし、そこで良質なお店が一挙に紹介してもらえたら嬉しい」

ティナ「食を通じて人を繋げることが、今の私の生き甲斐です。ただオシャレなものを作りたいだけなら私ができることはなくて、図書館や公園のように、お金を使わなくても知識が学べたり、人と繋がれる環境を増やしたいです」

早坂「新しいプロジェクトは、より都市型になった新たな村づくりのカタチなんですね」

ティナ「そうですね。もともと大学院でソーシャルデザインを学んだバックグラウンドがあるので、どのように街を実際に暮らす人々が魅力的にするのかがチャレンジです。今回はフードにまつわるプロジェクトですが、街や人のニーズによってケースバイケースで提供するサービスも変わります。ただ、お客様の目線でいることは、大切にしていますね」

早坂「やりたいこととニーズのバランスがやっぱり大切ですよね。特に作り手は、なかなか客観視が難しいですから。そこをあくまでも消費者目線を貫くことで、その街や人にフィットする環境が作れるんですね」

ティナ「まずは自分たちが消費者として行きたい場所であること。そこからかなって。お客様がインスピレーションなので、お客様の“欲しい”の声を掘り下げると、色々なインサイトが出てきます。自分もワクワクしながら自己満足にならず、街やエンドユーザーの求めることをしっかり理解し、それに答えたモノ作りは、時間はかかっても結果としてやりたいことが続けられるのだと思います」

about THEM

Make-up Artist, Aromatherapy Instructor
早坂香須子

看護師として大学病院に勤務した後、メイクアシスタントを経て99年に独立。国内外のモデルや女優から支持される。世界中の様々な地域への渡航経験などから自然との共存・心と身体の健康を志し、2013年AEAJ公認アロマセラピーインストラクターの資格を習得。オーガニックプロダクトコンサルタントなど、多岐にわたり活動。2014年11月22日にはインナービューティーを軸にした初の書籍「YOU ARE SO BEAUTIFUL」が発売。「W inc」所属。www.wtokyo.co.jp

FOOD&COMPANY Community&Marketing Director
ティナ 美波 ディングラー

1985年ロサンゼルス生まれ。インド人の父と日本人の母を持つ。英国セントラル・セント・マーチンズにてソーシャルデザインやデザイン思考を学んだ後、2013年10月まで大手外資系広告代理店に勤務。2013年12月よりFOOD&COMPANYの立ち上げチームとして関わる。ブランディングやコミュニティーイベントを通して人と人を繋げるイベントを企画するほか、米国オレゴン州ポートランド発祥の食を中心としたライフスタイル誌「Kinfolk Magazine」が各国で主催するコミュニティーイベントを運営する。

about BOOK

「YOU ARE SO BEAUTIFUL ~最高の私に出会う7日間~」
発売日:2014年11月22日(土)
本体価格:¥1,500(税抜)
サイズ:A5(129×182×14mm)
ページ数:160ページ
出版社:カエルム

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