SPECIAL INTERVIEW

秋山晶さんのUP DATEするスタンダード

カバーデザイン:服部一成
写真:平岩紗希 取材・文:河尻亨一
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秋山晶さんのUP DATEするスタンダード

山晶さんは、キユーピーをはじめ様々な企業やブランドの広告を作り続けてきたコピーライター。いまや伝説とさえ言えそうな数々の名キャンペーンを手がけ、そのキャリアが50年となったいまも、現役の作り手として一線で活躍されています。新聞、テレビ、インターネット――変わりゆく時代に流されることなく、人の心に届く言葉を生み出す秋山さんのスタンダードとは? “UP DATE”をキーワードにお話をうかがいました。

「考えているのは社会ではなく人間のこと。それも身近な人たちのことなんです」

秋山さんは時代とともにUP DATEし続けている希有なクリエイターだと思います。いくつになっても書くものや発想がフレッシュで古くならないのはどうしてですか?

秋山「思想がないからじゃないですか? 僕は空白みたいなものなんです。ものを作る人はだれでもそうだと思いますが、結局、僕が考えているのは、社会のことではなく人間のこと。それも身近な人たちのことですね。そういう人たちから入ってくる生の情報をインプットしているから、極めて少ないデータでアウトプットができるのかもしれない。何千、何万人ものデータを取るやり方もあると思いますが、それは数字であって人間ではないですから」

「どんどんシンプルにしていくこと。そうすれば自分のIDができてきます」

いまの時代、情報やモノが多すぎて、その中から何を選べばいいのかわからないシーンも増えて来ており、自分のスタンダードを見つけることは難しくなっています。

秋山「とはいえ、一人の人間が反応できる情報ってそんなに多くはないでしょう。情報に振り回されていると思う人は、“自分が何を好きなのか?”を一度じっくり考えてみればいいんじゃないでしょうか。方法論としては、よけいなものを削ってどんどんシンプルにしていくこと。そうすれば自分のIDができてきます。もうひとつ大切なのは“空白に向き合う”こと。たとえば未来は空白ですよね。空白って不安なものだから、人はつい『昔はよかった』と思いたくなるものだけれど、それはいまの自分がイメージする昔にすぎないんです。そのスタンスからは新しいものが生まれません」

デザイン:細谷巌

「むしろ時代から離れてるんですよね、僕は」

秋山さんご自身は何がお好きなんですか? 本や映画、音楽など幅広いジャンルをカバーされている印象があるのですが。

秋山「僕はなんでもふつうなんですよ。本や映画は好きだけど、ふつうに好きなくらいで。観たり読んだりしたものが、ほかの何かとジョイントすることはあります。こないだ芥川賞になった『春の庭』を読んだのですが、小説からほかのものを連想するんですよね。この小説は写真に似ているといったように。実際これは写真集の話ですが、小説の文章自体が非常にコントラストが弱くて、写真で言うとひとしぼりくらいオーバーになっているような文章なんです。読んでいてそれがとても快適なんですよ」

こういう具合に、話題の作品や最新カルチャーはいち早くチェックされたりしていて、尋常じゃないふつうさに驚かされます(笑)。時代への感度が高いというか…。

秋山「むしろ時代から離れてるんですよね、僕は。時代の中にいないんです。上昇気流の中にいるとか、時代の渦の中にいる感覚を持ったことがない。ずっと前からそうだったんですけど、時代をただ見ているというか。たとえて言うなら“木”みたいなものかもしれない。みんな僕の下を通り抜けて行く。色んな方とある時期一緒に仕事をするんだけど、僕自身は動かない。そして僕を通り越すとみんな偉くなっていく。なんででしょうね?」

「説明的なものは伝わらない。コピーは結論が出ちゃうとダメですね」

いまのお話から「時代なんか、パッと変わる」という秋山さんの書かれたコピーを思い出したのですが、一歩引いた目でモノゴトを客観視することが秋山さんのスタンダードであり、それがご自身をUP DATEする力につながっているのではないでしょうか。

秋山「それはわからないけれど、コピーを書くときでも、もう一人の秋山がサジェスチョンするっていうのはありますね。ここはこうしたほうがいいんじゃないかと。映画の『ベルリン・天使の詩』で、天使が街を見守っているようなものでね。そうして最初に書いたもののブロックの位置を変えたり、言葉をどんどん削って行く。残るのは半分くらいですよ。小説でもそうでしょうけど、空白があるほうがテンポがよくなりますよね。説明的なものは伝わらない。たとえば『るろうに剣心』は面白い映画だと思いますが、3作目より2作目のほうがよかった気がするのは、3作目はファイナルだからここで話を収めないといけないし、いままでのエピソードも説明しなきゃいけないということがあったのかもしれない」

コピーは緑のペンで書かれるそうですが、それはどうしてでしょう?

秋山「子供の頃から緑が好きだったんです。第一稿は緑のペンで書いて、ブルーで修正します。するとどこを直したかわかります。それでもう一回緑で書いて、最後に2Bの鉛筆で書いたものを出力してもらいます。書き直しが多いんですよ。ひとつ仕上げるのに4~5回は書いてる。そうしないと起承転結になってしまうから。コピーは結論が出ちゃうとダメですね。読んでくれた人が、そこから何かを思い出してくれるのがいいコピーだと思います」

「イメージはフレームワークから生まれてくる」

秋山さんはコピーを書くと同時に、写真や映像を含めた表現全体をディレクションされているのですが、コピーライティングとクリエイティブディレクションとで違いはありますか?

秋山「ぜんぜん違います。クリエイティブディレクションの場合、まずは商品や企業に応じた枠を作るところから始めます。簡単に言うと、キユーピーマヨネーズなら『日常』という枠から考えていきますし、ジャック・ダニエルなら『見たことがないアメリカ』という枠ですね。この枠はとても大切で、写真でも映像でも表現にはなんだってフレームがあるように、イメージはフレームがあるからこそできる」

デザイン:細谷巌

インターネットやデジタルの表現についてはどう考えていますか。

秋山「インターネットは別次元の世界のような気がします。ネットには空間がない。スペースの認識ができませんから枠が作れないんです。押井守さんの『攻殻機動隊』を観たり、本もずいぶん読んだけど、ネットがまだあまり普及しておらず、みんなもよく知らない頃のほうがああいうものは面白かったんじゃないでしょうか。草薙素子(※『攻殻機動隊』のヒロイン)はネットと一体化しましたよね。デジタル表現について言うと、この領域のクリエイティブをする人の技術が高くなれば、新しいスタイルのクールなエモーションが出てくるだろうと思っています」

「フィジカルなコミュニケーションが大事だと思う」

「余白」や「空間」といったワードを何度かおっしゃったのが、お話を聞いていて印象的でした。

秋山「何もない場所が好きなんです。クルマで走っていてラジオが2時間も入らないようなユタ州の砂漠とか。東京に生まれたからでしょうね。日本でも北海道なんかに行くといいなあと思います。平地の広い畑の中に、一列になった防風林があるような風景を見ると気持ちがいい。ニューヨークもいいけれど、それはまた別のよさでね。あと、小説や映画より音楽のほうが僕は好きですね。なぜなら音はフィジカルだから。会社の行き帰りによくラジオも聴いていますが、音声で聞くとすごくよくわかる。書類なんかは読んでもちっとも伝わらないでしょう? やっぱり人間の生身のコミュニケーションというものは大事だと思います。ラブレターもラブレターという枠を前提にしているから成立するのであって、それがないとエモーションも届かないわけだから」

最後にもうひとつご質問を。秋山さんはコピーライターであると同時に、ライトパブリシテイというクリエイティブ・カンパニーのCEOでもあるわけですが、企業の取締役としてはどんなキャラクターなんでしょう?

秋山「社員には特に何も言いませんね。会社で短パンはいけない、ビーサンもダメくらいで。でもビルケンシュトックならいい。あと社員同士のバレンタインギフトは禁止。お返しが大変ですから(笑)」

デザイン:細谷巌

about him

Copy Writer
秋山晶

1936年東京生まれ。立教大学経済学部卒。ライトパブリシティ代表取締役CEO、東京アートディレクターズクラブ委員、ADC賞グランプリ、ACC賞グランプリ、第46回日本宣伝賞山名文夫賞。「秋山晶全仕事」(マドラ出版)「D.J.SHOW秋山晶の仕事と周辺」(六曜社)「アメリカン・マヨネーズストーリーズ」(ビジネス社)


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