SPECIAL INTERVIEW

安藤桃子監督が問う「0.5ミリ」の意味

写真:小林直人 取材・文:谷口暁子
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安藤桃子監督が問う「0.5ミリ」の意味

藤桃子監督の処女作である同名の小説が原作となった映画「0.5ミリ」が、11月8日に封切り公開された。現代社会を取り巻く複雑な環境や、多様化する家族との関係性や人との繋がりをアイコニックに描き出した、この難解とも言えるタイトルに込められた監督の想いとは。

単語では括れない個々のドラマと向き合った作品

「0.5ミリ」は“介護”と“戦争”を軸に、“怒り”や“悲しみ”を原点にして描かれた作品とか。

「確かに“介護”と言ってしまえばそうなんですけど、実際にお祖父さまやお祖母さまがご存命で交流のある方たちにとってみたら、そうした関わりを老人問題だと考えながら生きている方は少ないと思うんです。私自身も、祖母の介護を通し、そして家族で祖母を看取ったことで実感したのは、“介護”では片付けられない家族の話だということ。私と祖母の関係や妹と祖母の関係、親子である母と祖母、血の繋がりのない父と祖母の関係。そうやって個々の家族間の関係はそれぞれなのに、社会的には“介護”という言葉で一括りに表現された瞬間、すごく辛気くさいというか、触れにくいことのように大きな壁を作っている原因のひとつだと思うんです。“戦争”も同じで、単語ひとつで括ってしまうことの違和感を感じるんです。映画監督という職業でいる限り、その一つ一つのドラマにきちっと向き合うことも自分の仕事だと思っているので、そこのズレを感じて、この作品は作りました」

©2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

現代社会のニューヒーロー

主人公のサワちゃんは、どういった女性像を描きたかったのでしょうか?

「映画である以上エンターテインメントとしたかったので、ある意味では寓話の世界。リアリティはとてもツラく、しんどいことなのも事実で、今の社会では、お年寄りや子供に冷たい現状もあります。ただ、至極単純に考えて、私の知らない世界や歴史を見てきた先人に敬意を払って私たちは暮らしていくべきだなと思うんです。それができてないことに、悔しさを感じるからこそ、作品としては暗い部分だけではなくて、おかしみや笑いもある人生のペーソスを描きたかった。その中でのサワちゃんというキャラクターは、私自身が色々な経験を通して求めた“ニューヒーロー”の存在だったんですよね。現代社会にとって必要なヒーロー像を考えた時に、サワちゃんのような、ある種のファンタジー映画の主人公みたいな、魔法使いみたいな、ちょっと珍妙で、おじいちゃんたちをボロ雑巾のように振り回す(笑)。だけど、彼女の存在によってモノクロだった世界もカラフルに色付けられていく。そんな力を持っている人だと思うんです」

©2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

サワちゃん役は、監督の実妹である安藤サクラさん以外考えられなかったとのことですが。

「第一に、“安藤サクラ”という役者と一緒に仕事がしたかったという想いは強かったです。そこに姉であることが付加されたとき、監督として自分ができるメリットというかプラスの部分として、誰も見たことのないサクラの表情を見てきているということがあります。それは、もしかしたら親子でも見ていない、姉妹だからこそ見せてくれた表情もあると思う。この作品の強みとして、それらを引き出さなきゃいけないなという想いは初動からありましたし、サクラ自身も理解していたかと思います」

サワちゃんは、監督が表現された“昭和の女優の美しさ”や、怒りや締念など、本当に様々な表情を見せてくれたと思うのですが、それら全てが幼少期から一緒に過ごされたなかで、監督ご自身が見てきたサクラさんでもあるのかなと思いました。

「そうですね。サワちゃんっていう人物自体が非常に多面的で、全編通して全くの別人のような顔を見せ、変化を繰り返していくキャラクターです。姉としてサクラという人間を長いこと見てきて思うんですが、予想の範疇を遥かに超えるような表情を持っていて、ここから先もどれだけの顔があるんだろうと思うくらい未知の生き物なんです。ただ、今回の作品では、30年近くを姉妹で過ごした時間の顔は全て出し切れたな、という自負はあります。作品としては構想6年くらいの感覚ですが、実際には、姉妹で30年近く積み重ねてきたことが、やっと映画というカタチにできたと思っています」

©2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

人生の数だけ答えがある「0.5ミリ」

「0.5ミリ」というタイトルは初めから浮かんでいた、と伺ったのですが、監督にとっての0.5ミリは?

「答えは無限大にあるものだと思っています。例えば、後で調べて分かったことなのですが、零戦の機体の厚みは0.5ミリだったり。その0.5ミリに堀越二郎は人生をかけたのだと知ったときには、その希有な偶然に驚きましたし、0.5ミリって単位はシャープペンだけじゃなくて、色んなところに潜んでいる。坂田利夫師匠は「年寄りが、最後の人生をどう生きるかの生き様が0.5ミリだと思うんですけど」っておっしゃってくださいましたし、津川雅彦さん演じる義男先生が話す0.5ミリも正解なんですよ。ですから、自分の0.5ミリを押しつけたくないっていうのはありますが、自分自身としては、0.5ミリは「心の尺度」だと」

「心の尺度」とは?

「小学生のときには30センチ定規で“センチ”の勉強をして、そこから徒競走とかで単位が“メートル”になって、大学生くらいになると、車で街に出たり旅行に出かけたりして“キロ”になる。そうやって、どんどん宇宙を意識したり、世界地図を見たり、子供の頃には分からなかった数字での尺度や距離っていうものが実感として理解できるようになりますよね。だけど、それと反比例して人との距離感は掴みづらくなってくる。それは何だろうって思ったときに、「心の尺度」っていうものが、どこかに確かに存在するんだろうなって。それが、ちょうど “0.5ミリ”。産毛は触れますし、静電気も起きるし、体温も感じる。だけど実際に触れてはいない。1ミリの半分で、間の場所、中間地点のような気がしています」

監督とサクラさんの距離はどれくらいですか?

「どうでしょうね。なんかね、距離じゃないんですよね、サクラと私はもう。次元が違うところに、いつも二人でいる感じですね。「あんたと私は次元が違うのよ!」ってネガティブな意味じゃなくて(笑)。そこは距離も時間も空間自体が全然違う、地球のルールに乗っ取っていないような感じがするので、サクラとは三次元での距離が“ない”(笑)」

作品でも、色々な立場や状況での人間関係が描かれているのを観ながら、正解がないものでもあるのかなと思いました。

「そうですね。今、社会の在り方や家族の形態が目紛しく変化しているじゃないですか。映画でも、マコトとサワちゃんってすごくドライな関係で、観ていると不安になるシーンだと思うんですよ。でも、そこにおじいちゃんたちが加わると、とても豊かな景色になる。それって、私たちの暮らしているこの世界と同じで、老若男女揃って、この世の中はバランスがとれているんだなって思うんです。映画も、そうした社会問題全般への議論やコミュニケーションを交わせるひとつの文化だと思っているので、この作品も、世代を超えた会話や対話が生まれる存在になれたらいいなと思います」

たすきを繋ぐ“サワちゃんのコート”

今日は、監督のスタンダードアイテムとしてコートをお持ちいただきましたが。

「これはね、元は父のコート。奥田さんがホームレスの役をやるときに自前のコートに汚しをかけたものなので、かなりボロボロに見えますが作りはしっかりしていて、かなり長いこと着ています。サクラも、父から同じようなトレンチをもらって着ていますが、形は全然違うんです。私のは大きくてダボッとしているんですけど、サクラの方は、もうちょっとスマートな感じで。姉妹で似合う形が全然被らないので、いつも喧嘩せず分け合えるんです(笑)」

お父様が、監督とサクラさんそれぞれに似合うものを選んでくださったのですか?

「ううん。「これいいな、ちょうだい」みたいな感じで(笑)。うちでは、家族みんなで服を兼用するんです。今でこそ、オーバーサイズのコートとか、メンズの服を女性も着ていますけど、うちでは随分昔から“服を兼用する”感覚があったかな。実はサワちゃんのイメージも、サクラがいつも着ている大きいメンズサイズのコートがずっと印象にあって、小説では駅の落とし物だったサラリーマンのコートですし、映画では譲り受けたコートを羽織るというあのファッションは、すごく馴染みがあるんです」

©2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

「0.5ミリ」
出演:安藤サクラ / 柄本明 坂田利夫 草笛光子 津川雅彦
監督・脚本:安藤桃子
原作「0.5ミリ」安藤桃子(幻冬舎文庫)
配給:彩プロ
©2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS
2013/196分/カラー/ビスタサイズ
www.05mm.ayapro.ne.jp

about her

Film Director
安藤桃子

高校時代よりイギリスに留学、ロンドン大学芸術学部を次席で卒業。その後ニューヨークで映画作りを学び、監督助手としてキャリアをスタート。2010年監督・脚本を務めたデビュー作『カケラ』が、ロンドンのICA(インスティチュート・オブ・コンテンポラリー・アート)と東京で同時公開され、その他多数の海外映画祭に出品、国内外で高い評価を得る。11年に幻冬舎から初の書き下ろし長編小説「0.5ミリ」を刊行。監督業や執筆業、音楽コラム連載など、多岐に渡り活躍中。


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