FASHION WITH LOCAL CRAFTSMANSHIP

コミュニティを支える
《ザ・イノウエブラザーズ》のニットウエア

写真:竹内 一将(STUH/still) 取材・文:川島拓人
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コミュニティを支える<br />《ザ・イノウエブラザーズ》のニットウエア

「品質の高いものを作り続けることで、必ずポジティブな方向へ変わっていくものだと信じています」

やネットの情報に頼るのではない。実際に足を使い、地元の人たちとコミュニケーションをとり、その土地ならではの伝統やカルチャーを知ったうえで素材の特質を最大限に生かし、ファッションに落とし込む。目まぐるしいペースで更新を繰り返す既存のファッションシステムからしてみれば、膨大な手間や時間のかかるプロセスであることは言うまでもない。しかし、生産のスピートや量よりも大事なことがあると現在のファストファッションに対し反旗を翻す《ザ・イノウエブラザーズ》の日系デザイナーデュオ、井上聡と清史。ブランドのシグネチャーアイテムとなったニットウエアもまた、南アメリカのボリビアで出会った放牧民たちとアルパカの毛を丁寧に編んだ糸がきっかけとなった。

Q&A with INOUE BROTHERS
《ザ・イノウエブラザーズ》のフィロソフィー

Q:2004年にブランドを立ち上げましたよね。きっかけを教えてください。
A:僕たちがデザイン会社を始めたばかりのころの目標は、デザインとクリエイティブのスキルを使って社会貢献することでした。社会が少しでもポジティブな方向へ向かうようにね。

Q:羊のウールではなく、アルパカウールを使う理由も社会貢献に関係あるのでしょうか?
A:2006年に僕たちはボリビアを訪れ、そこで先住民族の人たちと出会い、彼らの文化そしてアルパカを放牧する習慣や歴史に触れることができたんです。このようにしてアルパカの毛糸と巡り会ったわけです。

アルパカウールはとてもユニークな素材です。いろいろなものに使えるし、本当に万能なんです。でも、ここまで素晴らしいアルパカを育てている人たちというのは、ものすごく貧しい生活をしているというのも事実だったり。僕たちは服を作るためのファッションブランドとしてスタートしたわけではありません。でもファッションが、遊牧民たちや地元のニッティング工場と一緒にモノ作りをすることの機会を与えてくれる。こうしてボリビアの土地を知った後、どうしてもアルパカウールを使い、世界でも通用するハイクオリティなモノを作りたいと思ったのです。そしてこれをちゃんとしたビジネスにすることで、ボリビアの貧しい遊牧民たちの暮らしにも潤いが生まれるのではないかと思ったのです。

Q:アルパカウールを取り扱う難しさは何だと思いますか?
A:アルパカウールの方がいろいろと難しいところがあります。常に挑戦です。まず、温暖化によってアンデス地方の気候も大きく変化して、アルパカの生活環境も変わり、毛の質がなかなか安定しないのが悩ましいところです。

Q:そのアルパカウールの特徴な何でしょう?
A:アルパカの毛の特徴は、ソフトな肌触りとラノリンと呼ばれる成分が含まれていないことです。羊のウールに比べると低刺激な素材なんです。それにアルパカの毛一本一本に空洞があり、その空洞が体から発せられる熱や外界の空気の温度に合わせて、自然と調整してくれる素晴らしいマテリアルなんです。

Q:最近はアフリカへ行ってましたよね。
A:ナミビアにある宝石が採れる鉱山へ行ってきました。ナミビアの宝石と日本のクラフツマンシップを融合させたジュエリーコレクションの展開を考えているんです。ナミビアの人たちは本当に素晴らしい人たちばかりでした。それに国自体もものすごく美しい。ナミビアの豊富な自然源をファッションを介して発信することで、社会的に恵まれていないナミビアの人たちにとって少しでも生活の支えになるように長い間持続できるようなプロジェクトにしていきたい。

Q:デザインのインスピレーションとなるものは何でしょう?
ハンターニットやフィッシャーマンニットといったクラシックなニットウエア。それにユニフォームやアート、ルードボーイカルチャー、アフリカ、南アフリカ、そして日本ですね。

Q:ブランドの哲学を教えてください
A:素材はもちろん、デザインの細部にまでこだわること。それに服に使用するマテリアルが生まれた場所の特性を生かすことです。素材の土地柄とそれを作る人たちのヘリテージが僕たちのデザインと組み合わさることで、“ニューラグジュアリー”という新しいジャンルが生まれてくると思っています。こうした品質の高いものを作り続けることで、必ず社会がポジティブな方向へ変わっていくものだと信じています。

Q:制作プロセスにおける《ザ・イノウエブラザーズ》らしさとは何でしょう?
A:できるだけ、コラボレーションする人たちと直接繋がり、働くことのできる環境を作ることです。ダイレクト・トレード(直接貿易)と呼ぶんですが、アンデスの遊牧民から売り場までを繋ぐ。これを実現するためには“人の手を介することが必要不可欠です。機械ではできない。さらに今の一般的な生産方法と比べると、かなり時間がかかる方法です。でもこの方法だからこそ、余計なコストがかからないし、第三者に仲介料金のようなものを支払う必要もない。ダイレクトに取引をすることで、利益率を上げることができるのと同時に、最高級素材を使用した洋服をリーズナブルな値段で提供することができるのです。

Q:《ザ・イノウエブラザーズ》の“日本”らしさはどこにあると思いますか?
A:デンマーク育ちの僕たちですが、ちゃんと日本人の血が流れています。ルーツである日本からは、今でも大きな影響を受けているし、日本人のなかにある自然と共存する文化であったり、礼儀や繊細さ、そして勤勉さだったり、団結する力を本当に素晴らしいものだと思っています。

Q:デザインではどうでしょう?
A:自然の美しさから得た感動をできるだけ服のディテールに落とし込むようにしていることですかね。日本のスピリッツがきちんと宿ってるんです。

【COVER CREDIT】

写真最上段:《The Inoue Brothers×Edition》のニットウエア
各¥39,960[トゥモローランド TEL 0120-983-522]

about them

Designer
INOUE BROTHERS

デンマーク・コペンハーゲン生まれの日本人兄弟、井上聡(左)と清史が2004年にスタートしたブランド。アフリカのビーズ工芸や南米のアルパカの毛を使用したニットなど、その土地に根差す伝統工芸に注目したメンズウエアやアクセサリーなどを打ち出している。


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