SPECIAL TRIPARTITE TALK

“水の時代”の暮らし方 Vol.3

写真:竹内一将(STUH) 取材・文:林理永
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Vol.3 これからの水を考える

早川光(水スペシャリスト) × 宮本彩菜 (モデル) × 大田由香梨 (ライフスタイリスト)

たちが毎日必ず触れる“水”のこと、どのくらい知っていますか?これだけ食の重要性が訴えられているなか、その根源にある水について知ることは、実はすごく重要なことなんです。今回、水について教えてくれるのは、多面的な観点から水について研究している水のスペシャリスト・早川光さん。自らカフェを営むライフスタイリスト・大田由香梨さん、最近農業を始めたモデル・宮本彩菜さんとの鼎談形式で、水の基本や選び方、環境問題まで、3回にわたって「“水の時代”の暮らし方」を考えます。

「自分の畑で農業を始めてみて、土と水の有り難みを実感しています。」(宮本彩菜)

─土と水の関係

大田由香梨(以下、大田)「彩菜ちゃんは農業を始めたんだよね?」

宮本彩菜(以下、宮本)「そうなんです。岩手県で農業を始めさせていただいていて。最近は、オクラ、ピーマン、米ナス、ナス、ししとうの苗を植えてきました。」

早川光(以下、早川)「どのくらいのペースで通っているんですか?」

宮本「行ける時には行きたいのですが、今のところ、1ヶ月に2〜3回行けたら、というペースです。私の人生の目標が“自給自足”なんですよ。なかなか全部はできないのですが、できるところから始めています。」

早川「土って、地下水や雨水とすごく関係があるんですよ。もちろん、農業をやっていると分かると思うのですが、作物を収穫した後、ただ放っておくと土はどんどんダメになってしまう。でも、掘り返しているだけでも、また生まれ変わってきます。」

大田「酸素を入れるだけでも違いますよね。」

早川「以前、専門家の方に取材をしたことがあるのですが、自然環境を守る上で何が大切かというと、山や森林の土のコンディションを保つことなんですよね。土が団粒化して、団粒構造になった土壌には適度な隙間が生まれるので、保水性と排水性が高くなってどんどん活性化してくるんです。」

宮本「団粒化ですか?」

早川「土や砂などの粒子や腐葉土のような有機物が固まりになったものを団粒と呼ぶんです。そして土を団粒にするのに役立つのが、植物の根なんですね。でも今は、見栄えを優先して、単一の植物だけを植えて整備していますよね。そうすると、土の中で同じ深さの部分しか根が掘ってくれないから、その上も下も土が固まって、カチカチの土になってしまうんですよ。」

大田「なるほど!単一の植物だけが植えてある状況は自然じゃないですもんね。」

早川「根の長さの違うさまざまな植物を植えると、根が土の中を動かしてくれます。それによって土が団粒化して、隙間が生まれてくるんです。そこに生態系が生まれ、色んな生物のフンがまた土を豊かにします。そうした自然のサイクルの中で、良い土が育まれるんですよ。」

大田「土が良い状態だと、水も綺麗になるんですか?」

早川「というより、団粒構造の保水性のある土でなければ、降った雨を綺麗にろ過することはできない。良い水が生まれないんです。全部繋がっているんですね。」

大田「私も実家が畑をやっていて、農作物を育てる時は、常に水が側にありますね。」

宮本「私の畑でもすぐ側にキレイな小川が流れていて、そこで汲んできた水を使っています。飲み水にもなるし、終わったらその小川で道具を洗って、ありがとうって言っています。」

早川「その小川にも水源となる山や森があって、その森の土がもし汚されると、水源も川も全部汚されてしまうんです。そこも全て繋がっているので。その大元になっている自然をどうやって保全していくかが課題ですよね。」

大田「水源が汚れてしまうのは、人の手によって直接汚されてしまうことの他にも何か要因はあるんですか?」

早川「さっきの話に出た、単一の植物、杉なら杉しか植林していない山は、土が団粒にならず保水性がないので、大雨が降ると土砂崩れを起こしやすくなるんです。その土砂崩れが水源も崩してしまう。今、台風や集中豪雨があるたびに土砂崩れが起きていますが、それも土のコンディションが保たれていないことに関係しています。」

宮本「土が良い状態だと、水は綺麗に保たれるんですか?」

早川「そうですね。土が団粒構造であれば、山々に降った雨が、少しずつ土の中に浸透していって、地層のフィルターを通すことで綺麗になって、湧き水や川の水源になっていきます。逆に土がぎゅっと固まってしまっていると、雨水は浸透せず、山の表面を流れ落ちてしまいます。」

大田「じゃあ、色々な種類の植物を植えていかないといけないんですね。」

早川「色んな植物が混在しているというのが、山や森にとって自然な状態なんです。それなのに、均一な植物を植えてしまうから、植生も生態系のバランスも崩れてしまっている。」

大田「植林をしすぎることが、逆効果を生んでいるんですね。」

早川「均一に植林された山は見た目には美しい。でも自然は本来、そうした均一な姿はしていない。でもそうした本来の姿を保つことが今はすごく難しくなっています。」

「これからの時代は、数百年前から変わらないピュアな水や土に価値が出てきます。しかし、それが環境保護につながるとは限らない。怖い時代になってきていると思います。」(早川光)

─“水の時代”を生きる

大田「早川さんのお話を伺うまでは、研究者の方々が随時何かを発表していくということは、人とともに水も進化しているものだと思っていたのですが、今までの話から言うと、そういう訳でもないですよね?」

早川「水は進化したり変化するものではなく、もっと普遍的なもの、変化してはいけないもの、と考えた方が良いと思います。環境破壊によって、手つかずの自然によってろ過された、ピュアで安全な水の価値が高まっている。だから、20世紀が“石油の時代”で、21世紀は“水の時代”と言われているんです。これからの時代は、新しいものを追いかけるというよりは、古いもの、古くから変わらないものにこそ価値がある。数百年前、1千年前から変化していないピュアなものにこそ価値が生まれるんです。」

大田「色んなところで採れた水を商品にする、ということは、そういうところで権利争いが起きたりするんですか?」

早川「“ウォーターバロン”という言葉をご存じですか?上下水道の事業を支配する水利企業のことをそう呼ぶのですが、そうした大企業だけでなく、世界中の資産家や投資家たちが、もう10年以上も前から、安全な水源の権利をどんどん買いあさっています。それは日本の水源も含めて。」

宮本「貴重な自然に、金銭的価値も付いてきているんですね…。」

早川「それは水だけでなく、土も同じです。今や世界中のどこの土壌にも農薬の残留物が含まれていると言われています。ヨーロッパで環境保護をしているミネラルウォーターの水源の周りにも、そういう農薬の残留物がゼロという土地はとても少ない。そうなった時に目がいくのは、全く農薬に汚されていない、ピュアな土ですよね。でも、そんな土は世界中にほとんど無いんですよ。だから、今後は土もビジネスの対象になっていくはずです。」

大田「そういえば、何年か前にケニアに行った時に、マサイ族の村にも環境の変化がかなりあってびっくりしました。“未開の地”というところに目をつけて開拓をすすめている方々がいて、マサイ族の人口増加や動物の激減を目の当たりにして…。同じことを、ボリビアのウユニ塩湖でも体感しました。それが世界のトレンドで、間違ったスタンダードになっていってしまうのではないか、ということに、すごく危機を感じました。」

早川「人の手で汚されていないピュアな水や土に価値がついて、そこに資産家が投資をするようになってしまうと、手付かずの自然が個人や企業の所有物になって隔離されてしまう。しかもその投資家が、水や土をどんなビジネスに利用するかもわからない。だから、それが環境保護につながるとは限らない。怖い時代になってきていると思います。」

宮本「本当に価値のあることが、歪んでしまうかもしれないですね…。」

早川「今は、石油に代わる新しいエネルギーや、ピュアで安全な飲み水の価値が高まってきている。これからはそれがよりハッキリしてくる。そうすると、今までは石油の奪い合いだったけれど、これからは安全な飲み水の奪い合いで戦争が起きるかもしれないんです。雨が降る所には集中的に降って、降らない所には一切降らないような異常気象がこれからも続くのであれば、飲み水の希少性は、どんどん高くなっていきます。」

大田「環境保護や共生、共存とは、違う方向にいってしまいますね。そういう、お金を出して自然を買う人達が、環境保護や資源の確保に目を向けてくれるようになってくれれば良いのですが…。」

早川「環境保護に投資するのではなく、自然環境の産物である水や土に価値が付き、そこに投資する人が増えて、もはやお金の代わりになりつつある、という今の流れが、すごく怖いことなんです。」

大田「凄い時代ですね。」

宮本「飢饉や戦争になってから気付いても遅いですよね…。」

早川「自然のものとの共生が、本気で見直される時代になると良いですね。その為には、1人1人が今実際に起っていることを知ることが大切なんです。今自分が飲んでいる水がどこから来たのか、環境保護をしているメーカーのものなのか、まずはしっかりと、見つめてみてください。」

”水の時代”の暮らし方 <完>。

────── Q&A ──────

① 東京の都心にも地下水は流れている?

宮本「東京にも、飲料水になるような地下水は流れているんですか?」

早川「はい。意外だと思うかもしれませんが、東京の地下深くには、すごく良質な地下水が流れているんです。かなり遠い、秩父や丹沢の山々に降った雨が、地下水となって都心まで来ているんですね。でもそういう地下水も、地下を深く掘ることによって途切れてしまうんです。」

大田「都心では地下鉄やビルが沢山建設されていますが、そういうことも影響してくるんですか?」

早川「高いビルを建てるときは、その分地下も深く掘り下げないといけないので、地下水の流れる層を、そこで遮断してしまう形になってしまいます。一度途切れるとそれが回復することはほとんどありません」

宮本「生活が便利になる反面、どんどん、キレイな地下水が失われていってしまいますね…。」

早川「地下数十メートルのところに、100年以上前の水が流れていたりするんですよ。それはまだ日本が環境汚染されていない時の水なので、東京でも深い所の井戸水はすごく綺麗なんです。そういうものこそ守っていかなきゃいけないと思います。」

② 水素水と酸素水って?

宮本「“水素水”という言葉を最近よく聞くのですが、普通のミネラルウォーターとは何が違うんですか?」

早川「水素水とは、水素ガスを含んだ水のことです。この水素ガスに体内の活性酸素を減らす効果があると言われています。確かに水という物質は水素と酸素からできていますが、水素ガスを水に加えたからといって、それがそのまま水に溶けるとは考えにくく、本当に活性酸素を減らす効果があるのかは疑問です。僕は効果があるかどうか判断するのには、まだまだ臨床データが足りないと考えています。」

大田「活性酸素って、それが原因で免疫力が落ちたり、ガンの元になる、と言われている物質ですよね。あまり根拠は無かったんですね!」

早川「もうひとつ、“酸素水”というものもあるのですが、こちらにも明確な根拠はありません。単純に、水の中の酸素の量を増やすと、血液から体内に酸素が送り込まれて、運動のパフォーマンスが上がる、という考え方です。ただし、呼吸器ではない胃や腸といった消化器から、どの程度の酸素が体内に吸収されるのか、信用できるデータが揃っていないと僕は考えます。」

大田「でもそれはきっと、加工水ということですよね?ミネラルウォーターではなく…。」

早川「そうですね。後から人工的に酸素や水素ガスを加えています。現時点ではその効果に十分な科学的根拠があるとは言えないのですが、これから5年か10年くらい経って初めて臨床的なデータが揃うので、その頃に効果があることが証明される可能性もあります。」

③ 炭酸水って?

宮本「炭酸水を飲み始めてから胃腸の調子が良くなった気がするのですが、それには科学的根拠はあるんですか?」

早川「日本では、炭酸水はそれほどポピュラーではないのですが、ヨーロッパの人達は炭酸水をよく飲みますね。ヨーロッパの炭酸水には“重炭酸塩”という胃薬にも使われている成分が含まれているんですよ。だから、食事で胃がもたれている時に炭酸水を飲むと、胃がすっきりするんです。」

大田「普段買える炭酸水だと、何が良いんですか?」

早川「ヨーロッパの炭酸水をおすすめします。その中でも『ペリエ』はいいですね。普通の炭酸水は泡のシュワシュワした感じを強めるために、後から人工の炭酸ガスを添加するんですが、『ペリエ』は、地下の地層の中から天然のガスを別に採取して、それを後から添加しているんです。もうひとつ『バドワ』という水も天然の炭酸水で、フランスでは特に人気があります。」

宮本「炭酸水は料理にも使えるんですか?」

早川「『ペリエ』も含め、ガス圧の強いものは難しいですが、『白水鉱泉』など微炭酸の炭酸水、しかも軟水であれば、煮沸してガスが抜けてしまえば、料理にもお米を炊くのにも使えます。それが味に影響することもありません。」

about THEM

Water Specialist
早川光

はやかわ ひかり
著述家、漫画原作者。東京新宿生まれ。ライフワークは水と江戸前寿司で、「すし江戸前を食べる」「東京の自然水」「おいしい水で料理が変わる」「ミネラルウォーター・ガイドブック」「ミネラルウォーターで生まれ変わる」「江戸前ずしの悦楽」「日本一江戸前鮨がわかる本」「鮨水谷の悦楽」など、数多くの著書がある。中でも「ミネラルウォーター・ガイドブック」は1994年の発売以来、20年ものロングセラーとなっている。コミックス「江戸前鮨職人きららの仕事」「私は利休」「アントルメティエ」などの原作も担当。(「きららの仕事」は2005年にTBSでテレビドラマ化)
2002年9月には東京都の「名湧水選定委員」に就任。現在、テレビ番組「早川光の最高に旨い寿司」(BS12)に出演中。
http://hikari-h.blog.so-net.ne.jp/

Model
宮本彩菜

みやもと あやな
モデル。1991年大阪府生まれ。2013年より本格的に活動をスタートし、広告や雑誌等を中心に活動中。 自ら撮影&編集した動画・GIF・イラストなど、クリエイターとしても国内外で注目を集めている。今後は女優として活動の場を広げて行く予定。今年から岩手県に”AYANA’s Vegetable Garden”を作り、農業を始める。

Life Stylist
大田由香梨

おおた ゆかり
ライフスタイリスト。Fashion stylistとして培った視点をベースに、衣食住<ライフスタイル>全てにおいてのスタイリングを手がける。2011年より、自身のライフスタイルへのこだわりを投影した”ORGANIC TABLE BY LAPAZ”をプロデュース。多くの情報が溢れ、流れてゆく現代のライフスタイルのなかで、ヒト・モノ・コトすべてに、流行に左右されない付加価値をスタイリングする。
www.yukari-ota.com
www.instagram.com/otayukari


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