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自分の持っている力を100%発揮する為に、用意周到に準備を整えてから物事に取り組むようにします。それは、後で後悔しない為でもあり、そのような仕事の取り組み方が正しいと幼い頃に学んだせいかもしれません。でも、完璧さを求めすぎ、スムーズに事が運ぶことが第一だと考えすぎる為に、その過程で自分と違う意見を提出されたとき、突発的すぎると拒絶し、最初に出た企画に沿うことだけに拘り過ぎ、内容に勢いがなく面白みに欠けることがあります。結果、きれいである程度の水準のものが出来上がったとしても、他の人の目を引くような斬新さにかけてしまうことがあるように思います。

フラクション・マガジンでフォト・アイの営業部長のメラニーさんがお話しして下さった通り(記事、昨今の写真集ブームは、コレクターや写真家の拡大に伴い、大手の出版社の大御所写真家による写真集の発刊の増加、さらに多くの無名な新人作家による自費出版の流行やオンラインでのアウトプットの活用、個人の出版社の活発な活動に支えられています。ダシュウッドには、毎日多くの作家の写真集が届きます。本の出来上がりの完璧さからいえば、やはり大手の有名な出版社が制作した写真集の方が、自費出版の写真集より専門のデザイナーにアート・ディレクションを一任している為に、仕上がりもそつなく、美しいものが多いのは事実です。しかし、荒削りであるけれども個性的な内容で、心がこもって大事に制作されたのだなと印象を受ける数多くの自費出版の作品があることにも気がつきます。

今をときめくアメリカの写真家のサム・フォールや、ライアン・マッギンレーは無名時代に自宅のプリンターで手作りの写真集を制作しました。サムがまだ国際写真大学(バード・カレッジ付属)の大学院生だったときに目の下に隈を作り、夜なべをして作った Zine を、ダッシュウッドで受け取った時のことを未だによく覚えています。それは、コピー紙の半分の大きさで、ホチキスでとめた簡素な作りの50部限定で発売されたジンでした。課題の多いカリキュラムを優秀な成績をおさめる一方、パート・タイムでコマーシャル・フォトグラファーのアシスタントもこなす中で制作した6冊の手作りの写真集は、もちろん、色に斑が合ったり、紙の大きさが少しずれていたり、大手の出版社から出される出版物に比べ仕上がりの完璧さは劣ったものでした。しかしサムのジンは彼の気持ちがストレートに伝り勢いのある美しい写真集で、手に取った瞬間に宝物を見いだした子供のときの特別な気持ちがするような気がしました。きっと、サムの手作りの写真集は、かれの想いがずっしり詰まっていて私はそれに感動したのだと思います。実は、サムは、そのジンをダシュウッドに置いたため、たまたま来訪したHigher Picturesのディレクターの目に留り、始めての個展を数ヶ月後に催すこととなりました。そして、今では、ロスのM+B Galleryを含め4つの画廊に所属し、世界中のアートフェアに参加するアート界期待の新星として、華々しい活躍をしています。

高いお金をかけなくても、有名デザイナーと一緒に本を制作しなくても、仕上がりとして完璧でなかったとしても、人の心を打つ作品が自費出版の写真集にあります。全ての自費出版の作品が素晴らしいわけではもちろんありませんが、独創的で面白い作品が多いように思います。そして、自分で制作することによって、人に見てもらえるチャンスを掴み、 今の自分の持っている想像力を表現することが何より新人の作家にとり大切であるように思います。

今回は、新人作家の手作りのジンや、インデペンデントの出版社から少数部数で制作された創意に満ちた写真集を5点紹介したいと思います。今回選ばして頂いたのは、アメリカ人の作家に限りましたが、次回は日本の写真家の作品も紹介したいと思います。ダッシュウッド・ブックスの方へどうかご連絡を頂ければ大変光栄に思います。どうかよろしくお願いします。

 

① AN ISLAND IN THE MOON

ジョーダン・サリバン

出版社:Ampersand Editions

出版年:2015

版数:250

www.jordan-sullivan.com

AN ISLAND IN THE MOON

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般若心経が出典の仏教用語である、「色即是空 空即是色」からインスパイアーされ本作は制作したのだと、作家のジョーダンは教えてくれました。アメリカ人で日本語/中国語を読めなく、仏教徒でもないジョーダンがどれだけ正確に「空」という概念を理解しているかは疑問に思います。私も、よくわからないです。 なぜなら、ここでいう、空は、有ることの不在を表しているのではなく、存在を超越した世界の絶対無を示しているので、意識のある私が、絶対無の存在を理解することは、とても無理なような気がするからです。でも、目に見えないもの、例えば、過去の思い出やその時抱いた気持ちが、不規則に心にあらわれて、とりとめがなく私の心を締めつけることがあります。そして、一般的に理解される一直線に伸びる時間の流れとは違う次元で、昔の想いに心を揺さぶられ、新たな印象を感じ、切なく幸せな気持ちになることがあります。本書のコラージュと写真をみていると、現実と想像の世界を軽やかに浮遊している気持ちになれます。幻想的な仕上がりの写真集です。

 

② ROYGBIV X GOLD

オリビア・ロッシャー

自費出版

制作年:2014

版数:130

www.olivialocher.com

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1990年、ペンシルバニア生まれのオリビアは、ファッションなどの商業写真の分野で大学卒業直後から大活躍をする作家です。日本もおそらく同じだと思いますが、アメリカの写真業界は男性が大半を占める、ボーイズ・クラブです。機材が重すぎることと、撮影を引率する為に強い個性をフォトグラファーがもつことを現場で望まれるので、男性に比べ主張がやわらかくなりがちな 女性(?)は、頭角をあらわすのが難しいのかもしれません。実は、オリビアは自己主張が強すぎるディーバタイプではなく、いつも人の心を明るくする気持ちのよい20代の女性です。しかし競争の激しいニューヨークのファッション業界のフォトグラファーとして、ファッション・ウィークや、多々の著名な雑誌(T Magazine, The Daily Mail, The New York Times, Bloomberg Businessweek, and W Magazine)で大活躍をしています。彼女のサクセスは、一緒に仕事をしたくなる気持ちのよさ、つまるところ、人としてのコミュニケーション能力の高さが原因なのではないかと思います。ある程度の商業写真を撮れる作家は多いと思います。最終的に長く業界に残れるのは、チームメイトとして、心地のいいオリビアみたいなフォトグラファーなのではないでしょうか。

そんな多忙なオリビアが、130部の少数部数で制作した写真集、 「ROYGBIV X GOLD」 を 前年末に発表しました。本作は、 アメリカの各州で施行されている馬鹿げた法律(テキサス州:子供は、奇抜な髪型をしてはいけない/オハイオ州:男の人が描かれた絵画の前で洋服を脱いではいけない/アラバマ州:アイスクリームを尻ポケットに入れてはいかない)にアイディアを得て制作されました。オリビアの得意とする明るいカラーパレットを基調に、一見とても愛らしい作品なのですが、綺麗で若い女の子だけが持つ(実際に彼女はとても美しいのですが)ちょっと意地悪なアイロニーさがあり、オリビア特有の毒を含んだ写真集に仕上がっています。

③ Cats & Dogs

トッド・フィッシャー

自費出版

出版年:2014

版数:50

www.toddfisher.net

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本作は、作家が昨年の7月にブルックリンの公園で催されたイベントに友人と一緒に立ち寄ろうとしたときに、雷を伴う大雨にあい、5−10分と言う短い時間で撮影された作品です。トッドは、予定やプロジェクトをまず決めて作品を作る方法を嫌い、偶然出会う風景や出来事に心を動かされて撮影する方法を好みます。多くの作家がニューヨークはビジネスをするのは最高だけど、作家活動をするのには、街全体が商業化されすぎていて、想像力を掻き立てられることがないとぼやくのをよく聞きます。トッドは17年以上長くニューヨークに住んでいますが、ニューヨークは未だに、新しい驚きと発見を見いだすことができるすばらしい街だと言います。特別な環境で美しいものを見つけるより、一見ありふれた日々の生活の中に感動をみつけられるトッドの目には、雨の雫はどんな宝石よりも輝かしくみえるのだろうなと思いました。雨に打たれる若者達を撮影した本作は、とてもシンプルな内容ですが、トッドの純真な心が感じられる遊び心に溢れた写真集です。

 

④ Floation Tank

ジャイルズ・カースルズ

自費出版

出版年:2015

部数:50 オリジナル・サイン・プリント付き

www.gilescassels.com

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「浮いたドラム缶」と名付けられた本作はおそらく、今回紹介させて頂く写真集の中で一番政治的な主張が強い作品です。フロリダで青年期をすごしたジャイルズは、自宅の側に建てられた夢の国の象徴であるディズニーワールドで10代の頃にアルバイトをした経験があります。そして、ディズニーが象徴する希望と自由と幸せに疑問を抱いていました。例えば、海は海でありそれ以上のものではないのに、ディズニーワールドのアトラクションで使われる海は、おそろしい程に魔術的な魅力に溢れた海に脚色されていることに、居心地の悪さと社会の欺瞞の影を感じ取ったからです。その経験は後も強く心に残り、アメリカの政治や経済のあり方ついて疑問をつのらせていきました。そして、 ディズニーを始めアメリカの商業主義がどんなに醜く他国を支配しているか、また、アメリカがとても軽薄な精神文化の上に成り立っているのか、またその社会に批判的な想い抱きながらも、安住している自分自身の立ち位置にも苛立を覚え、その気持ちを表現する為に本作は出来上がりました。

70年代ピクチャー・ジェネレーションの立役者の一人であり、アメリカ・ポップ・カルチャーが象徴をするモチーフを取り入れ、アメリカの資本主義やビジュアル・カルチャーを揶揄したリチャード・プリンスや政治問題、メディアの倫理、サブカルチャーなどをテーマに、主に広告写真を使いコラージュやモンタージュを制作したロバート・ハイネケンなどの伝統を受け継ぐかのようにジャイルズの本作は、現代アメリカの文化を象徴する作品で構成されています。映画や、テレビの画像や、道ばたに捨てられたミッキーマウスのぬいぐるみや、輝かしい未来の文明の証しである宇宙飛行士の赤オレンジのまばゆい作品が、スピード感溢れる断ち切りのレイアウトで力強く表現され、まさに作家自身の焦燥感を感じられる力強い写真集だと思います。「浮いたドラム缶」とは、きっと大きな海原に浮かぶアメリカの孤独な様子を例えているのかも知れません。もしくは、作家であるジャイルズ自身へのやるせない想いや孤独を表現した標題だと思いました。オリジナル・プリントが付いた本作は、4部作として発表されるシリーズの第一弾として50部のみ制作されました。今後期待の新人作家です。

 

⑤ Six Girls Six Cities

コール・バラシュ

出版社: A Love Token LTD

出版年:2015

版数:111

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www.colebarash.com

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アメリカに長く住んでいて気がついたことなのですが、アメリカは一芸、特にクリエイティブ系の才能に秀でる子供を育てるのに社会が、とても寛大であることです。日本の場合は、子供の適正を重んじるよりも、まず全ての分野の勉強を課することが第一ですが、アメリカでは、親も社会も学校も、子供の特殊な能力を延ばす為に、一つの狭い分野での活躍を10代の幼いうちから促進する傾向が強いように思います。わたしは、ひとつの分野に長く残りよい活動をする為には、多くの分野についても知識を持っている方が良い(教養は大事だと)と言う考えでまさに、日本の教育のありかたに賛成でした。

しかし、ダシュウッドを通し、10代の頃から自活をしながら好きなことに一心不乱に取り組み、20代の半ばまでに職業人(ミュージシャン、画家、写真家、デザイナー)として大成している多くの若者に出会い、社会に若い才能を受け入れる体制さえあれば、アメリカ流の教育のあり方はよいのではないかと思うようになりました。そして、彼らが生み出す作品は、若さの勢いと純真さに溢れていて、若いからこそ表現出来る瑞々しい感性に溢れています。そのような勢いのある作品は、頭でっかちで画一的な教育しか受けていない若者にはできない作品だと思うようになったからです。「Six Girls Six Cities」を今年3月初旬に発表したコールはまさに10代のうちから、自分の好きな写真だけに熱中に、突き詰めて行ったニュー・イングランド出身の若者です。コール自身がスノー・ボーダー、サーファーであり、16歳の頃から自分の撮った作品を多くのスポーツ専門雑誌に投稿し、親元を離れて撮影の仕事に従事することをしていきました。そんな、コールの本作は、妥協をしらない彼の性格をまさに反映する出来映えで2重露光の完璧な構成で制作されています。60年代のファッション・フォトグラファー、サム・ハスキンの「カーボイ・ケイト」「ファイブ・ガールズ」「ノーベンバー・ガールズ」を彷彿するようなクラッシックな女性のポートレイトに、各都市がもつダイナミックなエネルギーを合わせて表現した面白い写真集です。

前作「Talk Story」でハワイのサーファー、ジョン・ジョン・フローレンスのポートレイトは、まさにコールの専門分野での作品であるだけに、被写体との親密感が感じられ通常のサーフ写真集がドキュメンタリー性を強調しすぎるのに反し、コール自身の個人的な視点が組み込まれ見応えのある写真集でした。また「Talk Story Venice」は、ロスとニューヨークのギャラリーで展示会も開催され大成功を収めました。新作 「Six Girls Six Cities」で未知の領域にも挑戦しようとする意欲的な姿勢は、前回同様高く評価されることでしょう。

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