th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 007

 

みなさん初めまして。ニューヨークの写真集専門店、Dashwood Booksに勤務する須々田美和と申します。Dashwoodが2005年に開設してまもない時期から働き始め、1万5千冊以上に及ぶ写真集のデーターベースの管理と、著名な作家とのサイン会のコーディネーション、海外からの本の発注、店頭での接客業に携わってきました。Dashwoodが他の書店と決定的に違うところは、お客様が本を購入される際に(それは、店頭でも、メール、電話でも同じなのですが)必ずそこに、対話があることです。

コレクターや写真家の方とは、作家や、作品についての熱い想いをお話し頂き共に感心したり、映画・ファッション関係のお客様からは、手掛けているプロジェクトのイメージ作りに必要な資料を集める為に助言を求められることもあります。人との、コミュニケーションがオンラインでの通信により希薄になってきたと言われますが、「人が人との繋がりを求める衝動」はいつの時代も変わらないと、想いを巡らすことがあります。そして、その繋がりは、時を経て信頼性を伴った関係性を作ることが出来ます。素晴らしい写真集を通じて、世界中の人々と繋がり、多くのことを学び、感じ、そして今の私があります。

diaSTANDARDのブログを通して、皆さんと写真集についてお話し出来ることを楽しみにしています。

 

“Forgotten Photographs” Larry Clark (Boo-Hooray, 2014)

 

 

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - COVER

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SPREAD - 005

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SPREAD - 004

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SPREAD - 003

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SPREAD - 002

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SPREAD - 001

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - BACK COVER

先日、アメリカ歴史学者として、ニューヨーク大学で教鞭をとられているDashwoodのクライアントさんは「Documents are misleading.  What has been expressed is not clear or accurate for what has really happened.(研究対象として集めた書類だけを頼って、ただ読解するだけでは歴史上実際あったことを導きだすことは困難である-会話させて頂いた前後の内容をふまえた意訳)」と、自身の研究の際にいつも突き当たる問題点について話されました。

 

それに対し私は、「作家が(それが写真家でも、文学者でも、音楽家でも、デザイナーでも)世に出した作品だけが、伝えたかった全てを言い表しているわけではないかもしれませんね」と答えました。 クリエイティブな仕事についている職人やアーティストは、労力と時間をかけ試行錯誤した結果 一つの代表作品に辿りつくことが出来ます。つまり、その前後に制作された作品があるからこそ、彼らが最終的に良しとする作品が出来、公表するに至るのですが、 もしかすると、 状況によっては発表されなかった作品の方が、作家の意図を示すのに適することかあるのではないかと考えることがあります。

 

ラリー・クラークの最新作“Forgotten Photographs”は、本人自身がいつ撮影したのかさえもはっきり思い出せない、未発表の作品を集めた写真集です。ニューヨークのチェルシーにあるLuhring Augustineギャラリーで6月7日から開催されている個展、“they thought i were but i aren’t anymore…” に合わせ制作されました。 出版者である、 ヨハン・クーゲルバーク( Johan Kugelberg)とラリー・クラークとの共同作業で編集され、未成年の男子のヌードやガール・フレンドとのセックス・シーン、喧嘩の様子等、 赤裸々なアメリカのサブカルチャーを写した作品集です。現在71歳のクラークは、 都会から遠く離れ産業が衰退し寂れたオクラホマの田舎町で、違法ドラックの使用や、未成年者の性行為など頽廃した若者文化を撮影した写真集「TULSA」(Lustrium Press, 1971)や、ハーモニー・コリンが脚本を手掛け、クラーク自身が監督を勤めた映画「KIDS」(1995)で一躍有名になったアーティストです。

 

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 006

本作品は、エド・テンプルトンの「ティーンネイジ・スモーカー」(自費出版, 1999)や、リチャード・プリンスの「ガール・フレンド」 (Museum Boymans-van Beuningen, 1993)の写真集を彷彿されるような断ち切りでイメージは挿入され、高価な紙を使用せず無線綴じの至ってシンプルな装丁の写真集です。どのようなクリエイティブな仕事においても言えることだと思いますが、膨大な資金を投じて制作をすることが傑作を生み出すことにつながるのではなく、テーマに沿って作家の意匠を最大限にいかす素材を見極め、制作する為の状況が精神的に整っていること(作家と編者とデザイナーと印刷社が、作品に惚れ込み、よい作品を作ることに一心不乱と努めること)が、秀作をつくる為の重要な条件であるように思います。本写真集も、贅沢な作りや、凝った編集はされていませんが、若者文化をとりまく焦燥、倦怠、臨場感を最大限に表現する事に成功しています。

 

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 003

出版者のヨハンは、アメリカ実験映画の巨匠、ジョナス・メカスの映像理論に写真の編集に多大な影響を受け、「(メカスは)詩的な映画と口述的な映画の違いについて著しているのだけど、僕は写真を編集する際に、現実離れした要素や、言葉で表現出来ない詩的な感情を取り入れることを念頭においています。」と話してくれました。

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 002

私は、もちろん、ヨハンの編集の能力の高さにより、 完成度の高い写真集になったと思いますが、それにもまして大事なことは、ヨハンが、ラリー・クラークと長年に渡り友人として、そして、編集者としてつき合い、確固とした信頼関係を築いた為だと思いました。記憶の外に忘れ去られ、公表される機会がなく一時は不完全だとされた作品でも、出版者のアイデアによって新たに息吹をもたらした、「 Forgotten Photographs 」は150部という少数部数で発刊されています。ラリー・クラークの他の代表作品と共に、重要なコレクター・アイテムとして今年の夏は話題になりそうです。

 

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 005

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 001

th_BH-295 - LARRY CLARK - FORGOTTEN PHOTOGRAPHS - SELECT - 004

【取材協力】

Johan Kugelberg / Bryan Cipolla
Boo-Hooray
265 Canal Street Suite 601
New York, NY 10013
(212) 641-0692
INFO@BOO-HOORAY.COM
www.boo-hooray.com

READ MORE